一般に腱損傷を起こした場合、一部の症例を除き保存的治療は難しく手術による腱縫合術が選択される。しかしながら手術侵襲により少なからず周辺組織との癒着が起こるため、元来持ち合わせている手指の巧緻性や精緻性の十分な回復には至らず、患者満足度の低下につながることが多い。特に手指屈筋腱損傷に神経血管損傷を合併した症例では、長期間の固定を強いられるため癒着も強くなる傾向にあり、長期間のリハビリを行った場合でも日常生活において物を掴むなどの基本的動作さえ満足に行えなくなることがある。癒着予防のために早期運動療法などのリハビリを導入することにより一定の効果は期待できるが、腱組織の修復能力の低さゆえに再断裂を生じることも珍しくなく、再手術や長期間のリハビリを余儀なくされる。このように、腱損傷後の治療は主に腱癒着と再断裂の予防に集約されるが、これらを同時に解決する治療法は現在でも確立されておらず、術後成績を向上させる上で非常に重要な課題である。そこで、申請者らは腱癒着予防と腱癒合の促進を同時に達成する全く新しい治療法の開発が重要であり患者満足度の向上につながると考え、本研究を着想した。本研究では、まずハイドロゲルの調整を行った。本研究で使用するゲルは、ゲルの硬度、ゲル化時間を自由に調整可能であることから、濃度2%、ゲル化時間を1分程度に調整し使用した。次に、ラットのアキレス腱を使用した癒着モデルを作成した。ラットのアキレス腱を切開し縫合した後、ハイドロゲルで被覆した群と生理食塩水を使用した群に分け、癒着の程度を比較した。その結果、ハイドロゲル群にて有意に癒着が予防されていることが明らかとなった。このことから、ハイドロゲルにより術後癒着予防が可能と考えられた。
|