研究課題
本研究は、骨折部位への薬物送達技術を確立し短期間での骨折治療の実現を目指すものである。具体的には、骨折部位における出血を利用することで受動的に患部に薬物を送達可能な薬物送達(DDS)キャリアを創製する。骨形成を促進する薬物には、骨粗鬆症治療薬としてすでに臨床応用されているアレンドロネート(ALN)を用いた。2018年度には、ALNとポリエチレングリコール(PEG)とをpH応答性リンカーを介して化学結合させることで、高い血中滞留性を示すALN製剤(PEG-ALN)を作成した。PEG-ALNは、in vitroにおいて骨芽細胞分化誘導効果、ならびに破骨細胞の活性抑制効果を示した。さらに、脛骨骨折モデルマウスを用いて骨折部位への集積性、ならびに骨折部位で最も骨芽細胞を増加させるPEG-ALNの投与量を決定した。2019年度には、決定した投与量を元に、脛骨骨折モデルマウスに対する骨折治療実験を実施した。PEG-ALN投与群、ALN投与群、PEG投与群、および未処置群における骨折治癒効果を形態学的に比較したところ、PEG-ALN投与群において骨折治癒促進効果が認められた。さらに、各群の骨折部位を組織学的に解析したところ、PEG-ALN投与群では連続性を持った新生骨によって骨折端が癒合していたのに対し、他の群では愚完全な癒合を示した。2020年度には、骨粗鬆症マウスから作製した難治性骨折モデルを用いた骨折治療実験を実施した。PEG-ALN投与群、ALN投与群、PEG投与群、および未処置群で骨折地位効果を比較したところ、難治性骨折モデルマウスにおいてもPEG-ALN投与群において最も骨形成が促進されていた。しかしながら、難治性骨折モデルマウスでは骨折端の完全な癒合は認められなかった。難治性骨折モデルマウスでは、骨再生に最適な薬物濃度が異なるものと考えられる。今後、難治性骨折モデルマウスにおける骨再生に最適な薬物濃度を決定していく。
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Biomaterials
巻: 235 ページ: 119804
10.1016/j.biomaterials.2020.119804