研究課題/領域番号 |
18K09027
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研究機関 | 滋賀医科大学 |
研究代表者 |
彌山 峰史 滋賀医科大学, 医学部, 講師 (60362042)
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研究分担者 |
森 幹士 滋賀医科大学, 医学部, 准教授 (30467386)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 後縦靭帯骨化 / 黄色靱帯骨化 / 内軟骨性骨化 / プロテオミクス / microRNA |
研究実績の概要 |
脊柱靱帯骨化症(後縦靱帯: OPLL、黄色靱帯: OLF)は進行性かつ重篤な脊髄症状を生じうる疾患であり、骨化形態が多様であるため個々の病態に応じた治療が求められる。しかし、現在有効な治療法は神経症状を緩和・改善させる投薬、四肢機能の維持を目的としたリハビリテーション、脊髄の圧迫を除去する外科的治療に限られており、骨化の進行を抑制する治療は未だ確立されていない。 病理学的には脊柱靱帯骨化は内軟骨性骨化に準じており、骨化巣に近接して層構造からなる骨化前線が存在する。我々はこれまでOPLL由来の培養細胞を使用して研究を行っており、軟骨細胞分化、骨芽細胞分化に関与する因子であるRunx-2、Sox-9、Indian hedgehogなどの転写因子やシグナルがOPLLでは過剰に発現しており、骨化形成・進展に関与することを報告した(Spine 2013, Sci Rep 2020)。さらに、これらの発現を調節する因子の解析を目的としてmicroRNA array解析を行うと、OPLLではhsa-miR-483b-3p/down regulationが有意であった。このことはhsa-miR-483b-3pの標的因子の1つであるWnt signaling伝達物質の発現亢進を示唆しており、Wnt signalingの異常発現による骨芽細胞分化促進がOPLLの病態に関与すると考えられた(J Orthop Sci 2018)。 本研究の目的は、ゲノミクス、プロテオミクスを組み合わせた観点からみたOPLL/OLF疾患関連因子を解析することである。OPLLに特異的に発現するmicroRNAの標的因子と、網羅的解析によるタンパク発現の共通点と相違点を検討することで、新しい“骨化抑制療法”の開発に向けた新しい知見を得ることができると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
遺伝子発現は特定の生物に均一であるのに対し、実際のタンパク質発現は同一生物でも細胞組織、時間経過、細胞外環境によって発現が変化することが特徴であり、その原因として選択的スプライシング、タンパク修飾などが挙げられている。したがって、ゲノミクス、プロテオミクスを組み合わせ、OPLL/OLFに特異的な遺伝子発現という“共通性”と、それに対するタンパク発現の“多様性”について検討している。 プロテオミクスとして、連続型OPLL、分節型OPLL、頚椎症性脊髄症(CSM; 比較対照)の各群から代表的な4症例の靱帯組織由来培養細胞に対して、iTRAQによるタンパク質定量解析、LC-MS/MS解析によるタンパク質同定を行った。発現した総蛋白数は4353種であり、cut lineをabundance ratio>2とするとCSM群に対して連続群では37種、分節群では18種のタンパク質が抽出できた。タンパク発現分布からシグナル解析を行うとdisorder of glycosylation signalが有意(p<0.05, false discovery rate<1.0)となった。また分節型に比較して連続型では76種のタンパク質が高発現しており、oxidation-reduction process、S100/Ca-binding signalが有意であった。 コロナ禍による研究の一時停止の影響があり、進捗はやや遅れているが、予定に準じて実験を継続している。また、以上の結果については日本整形外科学会、日本脊椎脊髄病学会、日本リハビリテーション医学会などにて学会発表を行い、結果についての考察、討論を継続している。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の対象は、連続型OPLL、分節型OPLL、CSMの3群であり、プロテオミクス、microRNA arrayから得られた結果からOPLL形成に関する因子、およびOPLLの骨化形態に関する因子について検討することを目的としている。先行実験であるmicroRNA arrayとプロテオミクスを相関させると、連続型OPLLに認めた37種のタンパク質を標的とし、かつOPLLに有意に発現していたmicroRNAは6因子であった。今後、microRNAの発現量と骨化形態の相関性や、microRNAの標的因子とタンパク発現変化に関して、さらなる解析を進めていく計画である。 プロテオミクスのシグナル解析結果から、OPLL(連続型および分節型)と対象との比較においてdisorder of glycosylation signalが有意であった。Glycosylationはタンパク質翻訳後修飾の過程の1つとして糖鎖が付加する反応であり、糖鎖化された代表的なタンパク質はムチン、プロテオグリカンが挙げられる。現在、靭帯骨化に関与するプロテオグリカンに着目し、各種プロテオグリカンの発現量や局在について観察を行っている。また、OPLL連続型と分節型の比較において有意であったS100/Ca-binding signalは、骨化形態に関与する因子と考えられる。S100 protein signalは、細胞内カルシウム濃度の恒常性、細胞分化の調整に関与することが指摘されており、骨化前線の細胞分化と靭帯基質のmineralization変化について観察を進めている。 今後、これらの結果は十分な裏付けを行った後、学会発表、英文雑誌への投稿を計画している。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍の影響により実験中止期間が発生したため、細胞培養関連試薬、免疫染色関連試薬などに使用予定であった資金が次年度使用額となった。発生した資金は、研究の継続に関連する試薬、抗体の購入に用いる予定である。
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