研究課題/領域番号 |
18K09043
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
内山 勝文 北里大学, 医学部, 教授 (90286310)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 人工関節周囲感染 / 感染 / PCR / Tm mapping 法 / 16S-rRNA / 関節液 / 骨関節軟部組織感染症 / 菌数定量的検査 |
研究実績の概要 |
Tm mapping 法は、仁井見らが独自に開発した新たな敗血症の原因菌迅速同定システムである。本法は、真核生物である酵母をホストとしてbacterial DNA contamination-freeを世界で初めて実現したTaq DNA polymeraseを用いて、16S-rRNA遺伝子の8か所のconserved regionに、7つのbacterial universal primerをセットして設計し、得られた7つのampliconのTm値の組合せによる二次元 mappingを菌のフィンガープリントとし、その形をデータベースと照らし合わせることで菌種を同定する方法である。またTm値のずれを計算式にて得られたdifference value(DV)という値の、もっとも0に近い菌種が選択され、DVが0.5以上だと信頼できない菌種となり報告しないものとする。 本研究ではTm mapping法を骨関節軟部組織感染症の迅速診断に導入して行っている。Tm mapping法はDNAを抽出し、30から40サイクルにて1st PCRを行い、複数のuniversal primerを用いてnested PCRを2nd PCRとして30サイクルおこなう。血液培養検査と比較すると感染を生じた関節液は菌数が多いため、1st PCRによる菌数の定量的評価による菌種同定の信頼度の評価が必要である。関節液以外の感染軟部組織を用いた検査の信頼性の検討や複数菌感染の診断方法の確立のため、次世代シーケンサーを用いた複数の原因菌の確認が必要である。 また、人工関節周囲感染疑いの関節液検体での起炎菌迅速検査の有用性として、治療方針の何処に影響したかの検討や、起炎菌同定の迅速性が人工関節周囲感染の治療にどれ程役立ったかの評価を行う。さらに「菌数」の定量的検査が人工関節周囲感染の治療にどれ程役立ったかの評価も行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度は新型コロナウイルス感染拡大のため手術件数の減少により研究に使用できる検体の採取が滞った。また、学会等も延期になり予定より研究費を使用する機会が減少したため、研究期間の延長を要望した。 昨年度はTm mapping法による定量法として関節液中の細菌量を1stPCRを用いて測定した。Tm mapping 法定量検査における起炎菌の判定として、Golden standardである細菌培養・同定検査と、Tm mapping 法定量検査を比較し、起炎菌の判定のcutoff設定について検討した結果、臨床的に人工関節周囲感染症と診断され、培養・同定検査が陽性20例、及び陰性20例を用いてROC曲線を作成し、Tm mapping 法定量値をcutoff値(100)に設定した。 本年度はTm mapping 法の定量値をcutoff値(100)およびDVが0.5未満の条件を満たす場合の人工関節周囲感染における起炎菌迅速検査の有用性について臨床検体35検体につて検討した。細菌培養検査陽性例においては、DVを0.5未満のみに設定した場合、感度は100%であったが特異度は50%以下となった。Tm mapping 法の定量値をcutoff値(100)として追加すると、特異度は80%程度まで上昇した。細菌培養が陰性でも臨床的に明らかに感染と考えられた症例を陽性とした場合に感度は低下したが、特異度は90%程度に上昇した。症例ごとに検討すると、正確な結果が得られない原因として、混合感染の可能性、死菌の可能性、検体採取時のコンタミネーションの可能性や、Tm mapping 法定量値をcutoff値を50にするなどの変更の選択肢が考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
人工関節周囲感染を疑った症例で、まだ感染に対する治療を施されていない症例に絞った関節液検体での起炎菌迅速検査の有用性や、治療方針の何処に影響したかの検討、起炎菌同定の迅速性が人工関節周囲感染の治療にどれ程役立ったかの評価、さらに「菌数」の定量的検査が人工関節周囲感染の治療にどれ程役立ったかの評価が必要である。感染症を生じた患者が当院に来るまでの経過は様々であり、検査のタイミングは症例により異なる。臨床経過を加味した本検査の有用性を検討する必要がある。また、混合感染が疑われる場合は、次世代シーケンサーによる複数菌種の存在の検証を行い、本検査の限界についての検討も必要である。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は新型コロナウイルス感染拡大のため手術件数の減少により研究に使用できる検体の採取が滞った。また、学会等も延期になり予定より研究費を使用する機会が減少したため、研究期間の延長と次年度使用額の変更を要望した。
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