研究課題/領域番号 |
18K09049
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研究機関 | 独立行政法人国立病院機構(相模原病院臨床研究センター) |
研究代表者 |
大橋 暁 独立行政法人国立病院機構(相模原病院臨床研究センター), 外科系臨床研究室, 医長 (20466767)
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研究分担者 |
福井 尚志 独立行政法人国立病院機構(相模原病院臨床研究センター), 政策医療企画部, 特別研究員 (10251258)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 変形性関節症 / 関節 / 膝 / 痛み |
研究実績の概要 |
従来軟骨の変性疾患とされてきた変形性関節症(OA)であるが、多くの疫学研究の結果 から、滑膜病変がOAにおいても疾患の進行および痛みを中心とした症状の両方に深く関与していることが明らかになってきた。最近ではさらに早期OAが進行期OAへと進行する場合にも滑膜病変が重要な役割を果たす可能性が複数の疫学研究によって示されている。これらの知見からは滑膜病変を改善することによってOAの症状が改善するばかりか進行も抑止できる可能性が示唆される。しかしOAにおいて滑膜に病変が生じる機序は未だに明らかになっておらず、滑膜病変を改善する効果的な手法は見つかっていない。 OAにおいては滑膜病変が軟骨の変性と密接に関連して生じることは明白である。例えば人工関節によって関節軟骨変性部を切除すれば滑膜病変も消退する。単顆置換によって軟骨変性部のみを除去した場合でも効果は同様であり、したがって滑膜病変の成立には変性軟骨から遊離する何らかの因子が関与することは確実に思われる。実際、今までにOA関節では変性軟骨から断片化したファイブロネクチンやII型コラーゲンの変性産物が遊離して軟骨変性や滑膜病変を誘導するという仮説も提唱されているが、これらの仮説の真偽は不明であり、具体的にどのような因子が軟骨から遊離して滑膜病変を誘導するのかは今なお明らかになっていない。このような背景から、本研究では剖検例から採取した対照軟骨と末期OA関節から得たOA軟骨について、軟骨組織から遊離する因子を網羅的に解析し、変性軟骨に由来して滑膜病変を引き起こす因子を見出すことを目的として研究を展開する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究計画では当初、軟骨組織を組織培養によって維持し、培養上清中に遊離してくる因子について解析することを予定した。本年度はこの研究方法の妥当性についてまず検討を行った。その結果、軟骨組織中の遺伝子の発現レベルは組織培養によって大きく変動しないものも多い反面、遺伝子によっては1週間程度の組織培養でもかなりの程度変動することが明らかとなった。このことから本研究では研究計画を修正し、解析を軟骨組織の培養上清中の因子ではなく、軟骨組織から荷重によって遊離する因子について行うことに変更した。膝OAについては骨切り術で軟骨変性部に加わる荷重を軽減するだけでも痛みや水腫といった症状が軽減する。このことからも実際のOA関節では変性軟骨から荷重に伴って滑膜病変を誘導する因子が遊離すると考えられる。本研究では軟骨組織に日常生活において加わるのと同程度の1MPaの荷重を繰り返し加え、それによって軟骨組織から遊離する因子を探ることに研究の方向を変更した。 研究初年度である2018年度(以下、本年度)には、剖検例の膝関節から採取した対照軟骨10例10検体と末期のOA膝関節から採取したOA軟骨10例10検体について荷重抽出液を用意し、タンパク濃度を計測して比較的高濃度でタンパクが遊離した検体を対照軟骨、OA軟骨について各2本ずつ選択し、これらの検体に含まれるタンパクについてトリプシン処理ののちiTRACによる標識化を行ってからLC-MS/MSによる網羅的・定量的解析を行った。この解析は外部業者への委託解析として行ったが、検体の送付が本年度末となったため解析結果はまだ得られていない。研究第二年度にはこの結果をもとにOA軟骨から遊離して滑膜病変を誘導しうる因子の候補を絞り込み、それらの因子について検体数を増やして定量的な解析を行うことを予定している。
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今後の研究の推進方策 |
研究第二年度となる2019年度には上述のLC-MS/MSの解析結果をもとにOAにおいて滑膜病変の成因となる可能性のある因子(以下、候補因子)の絞り込みを行う。候補因子の選択に際しては研究代表者らの研究室において以前解析されたOA滑膜と対照滑膜における遺伝子発現のデータが活用される。研究室ではOA滑膜と対照滑膜についてcDNAマイクロアレイによる遺伝子発現の網羅的解析を終えており、とくにOA滑膜については48例48関節から採取した組織についてそれぞれの遺伝子発現プロファイルを決定済である。対照滑膜についても剖検例8例において既往歴がなく肉眼的にも異常所見を認めない膝関節から採取した滑膜組織について遺伝子発現プロファイルを個々に調べており、候補因子の選択にはこれらのデータが活用される。具体的には2018年度の解析によってOA軟骨からの遊離量が多いことが明らかとなった因子について生理活性を文献的に調べ、OA滑膜においてその因子が作用した結果生じる遺伝子発現の変化がcDNAマイクロアレイのデータ上認められるかを検討することで、その因子がOAの滑膜病変の成立に関与している可能性を検討する。 この検討の結果からOAの滑膜病変に関与する可能性があると考えられた候補因子については、検体数を増やして荷重抽出液を用意し、候補因子の定量的解析を行って実際にOA軟骨から多量に遊離することを確認し、さらに人工関節置換の際に同時に採取された関節液と滑膜組織について、関節液中の候補因子の濃度と滑膜組織における変化が実際に関連するかについても検討を行う。さらに必要に応じて培養滑膜細胞を用いて候補因子の作用を検証する。以上の検証の結果、候補因子の妥当性が認められればさらにその因子について動物実験を行い、因子の投与によって関節内に予想された変化が実際に生じるかを検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究では変性軟骨に由来して滑膜病変を引き起こす因子について検討を行う予定であるが、すでに述べたように、研究はまだ初期のステップを終えたばかりであり、今後LC-MS/MSによる解析結果を得て因子の絞り込みを行った後に本格的な検討が開始されることになる。次年度の検討ではLC-MS/MSの解析結果とマイクロアレイのデータとの照らし合わせによる候補因子の選択については研究経費は原則要さない見込みであるが、その後の荷重抽出液の解析ではELISAやLuminexによる因子の計測に相応の研究経費を要する。また人工関節置換時に採取された関節液、滑膜組織の解析については、関節液中の因子の計測と滑膜組織における遺伝子発現の解析に相応の研究経費を要す見込みである。さらに滑膜細胞の培養実験を行った場合には滑膜組織からの細胞の分離・培養、因子の入手(リコンビナントタンパクの購入あるいは合成を予定)、細胞の挙動の解析などに研究経費を要する。また以上の検討から有力な候補因子が見つかった場合に行われる動物実験については、因子の入手、実験動物の購入・飼育、リコンビナントタンパク投与後の関節組織の解析にも相応の研究経費を要す見込みである。本研究は初年度に研究の準備段階を終えたばかりであり、研究の核心的な部分は研究第二年度以降になされることになる。次年度において相応の研究経費は必須と考えられる。
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