研究課題/領域番号 |
18K09051
|
研究機関 | 医療法人徳洲会野崎徳洲会病院(附属研究所) |
研究代表者 |
笹川 覚 医療法人徳洲会野崎徳洲会病院(附属研究所), 研究所, 部長 (80345115)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 滑膜肉腫 / 転移 / 免疫監視 / HDAC阻害剤 / Twist1 |
研究実績の概要 |
当研究計画では骨軟部腫瘍の肺転移におけるNK細胞と腫瘍細胞との関わり方について解析を行った。骨軟部腫瘍の一つ、滑膜肉腫は発症例数こそ腫瘍発症例数全体の1%に満たない希少がんに分類されるが、高頻度に起こる肺転移に起因して予後不良となるケースが少なからずあり、悪性度の高いがんと考えられている。予後改善のために転移抑制、転移後にも有効な治療法は臨床現場から渇望されているが、現在までに決定的な方法は確立されていない。当研究ではNK細胞と腫瘍細胞の関係性に着目し、転移抑制、転移後にも有効な治療法に繋げることを念頭に、腫瘍細胞に発現するNKG2Dリガンドの分子動態について解析を行った。細胞は腫瘍化したり放射線や化学物質の暴露により変性するとNK細胞によって除去されるべく、NK細胞上に発現するNKG2D分子によって認識されるMICA/B分子を発現する。滑膜肉腫細胞株でMICA/Bの発現を調べたところ、転移促進因子として知られるTwist1により抑制されることが判明した。また、転移促進の環境因子である低酸素状態、血中の状況をもした浮遊培養状態、肺転移後の腫瘤を模したスフェロイド状態に応答して滑膜肉腫のMICA/Bは抑制されることも判明した。これに対して、低用量のHDAC阻害剤(HDACi)は滑膜肉腫に於いてMICA/Bの発現を回復させることを確認し、低酸素状態、浮遊培養状態のいずれの状況下に於いても抑制効果を上回って発現を回復させることを実証した。スフェロイド状態ではTwist1が発現しているとHDACiの効果が乏しく、Twist1のノックダウンによりHDACiの効果が回復することを実証し、Twist1が転移後の薬剤耐性に強く関与していることが示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までに当研究は、なぜ滑膜肉腫は免疫力がピークを迎えるAYA世代に好発するのか、なぜNK細胞が多く存在している肺に転移をすることができるのかという疑問に対して、転移促進条件に応答してMICA/Bの発現が抑制されてしまうことを示した。また、低用量のHDACiがこれらの抑制傾向を上回って強力にMICA/Bの発現を回復させることを実証した。これらの結果は、HDACiが転移抑制、転移後の治療方策として有効であることの分子レベルでのエビデンスであると考えられる。一方、Twist1は転移促進因子として知られているが、Twist1がHDACiの効果をキャンセルする責任分子であることを実験的に明らかにした。すなわちTwist1の抑制とHDACiの併用が肺転移後に於いても有効な治療方策になりうると推察された。これらのデータを取りまとめて、現在論文投稿中である。
|
今後の研究の推進方策 |
ここまでの研究成果は論文投稿中である。この研究の過程で、Twist1は転移後の転移巣に於ける薬剤耐性に関与していることが強く示唆された。Twist1による薬剤耐性を司る実行因子を探索した結果、ABCトランスポーターの幾つかと、鉄イオントランスポーターがその候補として浮かび上がった。また、スフェロイド形態(転移巣の模倣形態)において糖代謝および活性酸素種(ROS)に対する応答分子の代謝が変化することを見出している。一見すると結びつきが不明な分子群であるが、これらはフェロトーシスカスケードという枠組みで統一的に理解しうると推測された。一方、滑膜肉腫治療における薬剤の第一選択薬の一つであるドキソルビシンは、フェロトーシスを駆動することで心筋症を誘導することが最近の報告で明らかにされた。ドキソルビシンはDNA,RNAの複製阻害を薬効としているが、一方で強力にROSを発生させることが知られており、ROSによるダメージにより抗がん作用を発揮している一面もあると考えられる。これらの最近の治験と、自らのパイロットデータから、滑膜肉腫の薬剤耐性、特に転移巣に於ける高い薬剤耐性はフェロトーシスが阻害されている可能性が推察されることから、この仮説を実証することでTwist1の寄与と新規治療法について研究を推進する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスまん延の影響により研究活動が大幅に制限されたため。 研究環境が戻り次第、研究計画を実施していく。令和3年度中に完結する予定である。
|