研究実績の概要 |
半月板は関節機能の維持に必須の組織であるにも関わらず、その形成、成熟、恒常性の分子機序はほとんど解析されていない。私たちのこれまでの研究から、骨形成因子(BMP, Bone Morphogenetic Protein)ファミリーに属する分子BMP2を半月板形成期に欠失させると半月板形成に異常をきたすことを明らかとしている(Tsuji et al, Nature Genetics, 2006)。そこで本研究では、半月板におけるBMP2の情報伝達経路を詳細に解析し、その形態形成、成熟、恒常性及び損傷後修復のプロセスにおける分子機能を明らかとすることを目的とする。私たちは、発生過程における関節形成初期に、四肢の間葉組織特異的に骨形成因子BMP2を欠損させる(Bmp2c/c;Prx1::cre)と、100%の確率でヒトの円板状半月板に類似した形態異常が観察されることを示した。今回、詳細にBMP2欠損マウスにおける半月板組織の形成過程を組織学的に観察したところ、軟骨分化(成熟)のプロセスがほぼ完全に阻害されることを発見した。すなわち、これら欠損マウスでは胎生17日前後に半月板の予定領域に細胞の集積が観察されるが、それらは軟骨細胞への分化が観察されず、細胞外基質へのプロテオグリカンの蓄積も観察されなかった。また、半月板組織における軟骨細胞分化、骨髄腔の形成(齧歯類はヒトと異なり、成熟半月板の前節部に骨髄腔が形成される)、軟骨基質の蓄積は、15週齢においても観察されなかった。以上の結果は、一時的にせよ軟骨分化が観察される関節軟骨領域とは完全に異なった表原型を示している。以上の結果は、半月板形成過程においてBMP2が必須の生理機能を有すること、形態的にはヒトの円板状半月と類似しているが、ヒトの病態とは異なることを示唆している。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は主に以下の2点に関して検討を行う。 (1)半月板形成過程におけるBMP2及びその受容体分子(Alk3, Alk6, BmpRII, ActRIIa, ActRIIb)の時空間的発現解析。BMP2欠損マウスにおいて観察された半月板の形態異常の機序を解析するにあたって、半月板形成過程においてどの時期にどの場所でBMP2及びその受容体が発現しており、どの細胞がシグナルを受け取っているかを同定することは非常に重要である。この考えから、野生型マウスの膝関節を用いて、胎生15.5, 16.5, 18.5, 生後0, 1, 2, 3, 4週の半月板領域におけるこれらリガンド、受容体分子の発現をIn Situ Hybridization法を用いて解析を行う。また、BMP2シグナルを受け取っている細胞の同定はSmad1分子のリン酸化抗体を用いた免疫組織染色法を用いる。 (2)半月板形成(成熟)過程においてBMP2により制御される標的遺伝子の同定。BMP2による半月板形成の分子機序を解析するため、胎生15.5, 16.5, 18.5, 生後0, 1, 2, 3, 4週の野生型及びBMP2欠損マウスの半月板からLaser Capture Microdissection法を用いて組織を回収し、そこからRNAの採取を行う。Microarray法を用いて、野生型とBMP2マウスの間で発現量の異なる遺伝子の同定を行う。さらにその中から重要と思われる遺伝子のピックアップを行い、項目1と同様の実験を行なって、半月板の形成過程における遺伝子発現のカスケードの解析を行う。
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