研究課題
高悪性度軟部肉腫(軟部肉腫)の外科的切除のみの治療成績は5年全生存率が約30%であったが、近年の研究により、化学療法の有効性が報告された。また、軟部肉腫に対して使用可能な薬剤は限られていたが、2010年以降、Pazopanib (PAZ), Yonderis (YON), Eribulin (ERI)といった新規薬剤が開発された。だが、単剤での奏功率は決して高いとは言えず、投与に伴い耐性化を来す症例もしばしば経験し、各種薬剤の耐性化の克服は、軟部肉腫予後改善のための喫緊の課題であると考えられる。しかしながら、軟部肉腫に対する新規薬剤の開発が遅れているのが現状である。一方、肺癌などの領域では腫瘍の生物学的特性に関する研究が進み、悪性化に関わるドライバー遺伝子に着目したPrecision Medicineが導入・実用化され予後の改善が得られている。しかし、軟部肉腫においては、使用可能な薬剤は限定されている。よって、薬剤耐性化が生じる前に、Precision Medicineのアプローチを用いて、Pro-active (先取り)な手段を講じ、耐性化を克服する治療法を開発することが、既存のリソースを用いた、軟部肉腫の予後改善にとって最も有効と予想される。本研究では、(1)軟部肉腫の薬剤耐性機構の網羅的解析、耐性化推測モデルの確立 (2)臨床症例を用いた耐性化推測モデルの有効性の検証 (3)前臨床レベルでの薬剤耐性克服法の開発し、軟部肉腫の治療成績を改善することを目的とする。
2: おおむね順調に進展している
下記に示す成果が得られており、計画は概ね順調に進展していると考えられた。1) 軟部肉腫における、微小管分子チュブリンの発現プロファイル平滑筋肉腫、脂肪肉腫、悪性末梢神経鞘腫瘍、滑膜肉腫などの細胞株における、微小管分子チュブリンのサブタイプ別の発現プロファイルを検討した。その結果、細胞間において発現プロファイルは差異があること、また、数種類の細胞株においては軟部肉腫治療薬であるEribulin (Eri)に対する薬剤耐性因子と考えられるチュブリンBeta-IIIが、内在性に発現していることを見出した。また、複数の薬剤耐性株も作成している。2) 軟部再発を来した骨巨細胞腫に対する、分子標的治療薬denosumabの画像評価法の確立- 骨および軟部へ進展する中間悪性度の骨軟部腫瘍である骨巨細胞腫(Giant cell tumor of bone: GCTB)に対する新規分子標的治療薬として抗RANKL抗体であるdenosumabが開発された。多くの症例でdenosumabは有効性をきたすが、一部の症例では耐性化を示すことも知られている。有効性を示す症例では、腫瘍内に骨形成がきたすことが明らかとなってきた。今回、薬剤の効果を定量的に判定する方法を、CT画像における尖度や歪度といった要素を用いて開発し、既に複数の臨床症例に対して適用している。
次年度には、以下の方策を持って研究を進める予定である。1) 軟部肉腫における、微小管分子チュブリンの発現プロファイルと予後との相関実際の悪性軟部腫瘍標本における微小管分子チュブリンの発現プロファイルを解析。さらにEriを投与した症例においては、臨床的予後と発現プロファイルの相関を検討し、チュブリンの発現パターンが、Eriの有効性に対するバイオマーカーとなりうるかどうかを確認する。2) 軟部肉腫細胞株を用いた、in vitroにおける耐性克服法の開発本年度作成した、薬剤耐性株と親株の遺伝子発現の変化を、次世代シークエンサーを用いて定量的に評価する。その後、階層的クラスタリング解析を行い、複数の細胞株おいて、整合性を持って発現が変化している遺伝子群を抽出し、薬剤耐性のkeyとなる情報伝達経路を同定する。特にチュブリンなどの細胞骨格に関わる遺伝子により制御される情報伝達経路に着目する予定である。
物品日が予想よりも少額であったため。次年度に繰り越して使用予定。
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