研究課題/領域番号 |
18K09080
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
佐藤 和毅 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 教授 (60235322)
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研究分担者 |
中村 雅也 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 教授 (30217898)
名越 慈人 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 講師 (10383837)
芝田 晋介 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 講師 (70407089)
黄地 健仁 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 助教 (30803564)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | iPS細胞 / 末梢神経再生 / 神経堤様細胞 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、末梢神経再生に向けて自家神経移植と同等以上の機能回復を示すヒトiPS細胞を用いたハイブリッド型人工神経を開発することです。末梢神経の欠損・損傷は四肢の外傷や悪性腫瘍摘出術後などにしばしば発生します。欠損のない損傷は直接縫合が可能で臨床成績も比較的良好ですが、神経の欠損により一次縫合が困難な例の治療は非常に難渋します。現在、自家神経移植術や神経移行術が行われていますが、これら自己の神経を犠牲にする治療は当該神経の脱落症状や採取可能な神経長の限界など多くの問題を有します。近年、人工素材を用いたチューブ型人工神経も実用化されていますが、その機能回復は自家神経移植術に劣り、満足なものではありません。申請者のグループは、長年の脊髄再生研究で培ってきた知見・技術を礎にして、これまでにない機能回復に優れた人工神経の開発を行っています。 本研究では、Ⅰ.移植細胞、Ⅱ.移植媒体(scaffold)、Ⅲ.周囲環境(動物、液性因子、急性期と慢性期の違いなど)に分けてハイブリッド型人工神経の開発を行います。すなわち、以下の3つのステップで研究を進めます。 Ⅰ.ヒトiPS細胞由来細胞を誘導し、細胞表面マーカーを用いて分離後、マウスの坐骨神経の欠損部に移植し、その再生に寄与することを各種画像検査、運動機能評価検査、電気生理学的検査等を用いて評価する。 Ⅱ.そのヒトiPS細胞由来細胞が、適切な環境で生着及び各種誘導因子を行えるような移植媒体(scaffold)を作成する。 Ⅲ.マウスからヒトへの移植を視野に入れ、動物の変更だけでなく、安全性、多岐にわたる欠損型(欠損長、神経横径など)、その移植時期に向けた各種検討を行う。 上記Ⅰ~Ⅲに従い、動物、細胞種(マーカーの種類)、移植媒体の組み合わせなどを検討し開発を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度までの2種類のヒトiPS細胞株(201B7細胞株およびWD39細胞株)を神経堤様細胞に誘導後、LNGFR、THY-1、NCAMの3種の表在マーカーで純化した細胞群を移植群の12週までの良好な移植経過、運動機能評価の経過を受け、その理由を検討すべく4週、8週の組織学的評価を目的として再移植を行って確認した。 HNA(ヒト細胞の核マーカー)とKi67(細胞増殖能マーカー)を用いると、4週では高かったHNA/Ki67の比は、8週では4週からの経過を受けHNAが増え、一方でKi67は大きく下がり、12週ではHNA、Ki67ともに著明な減少を認めた。増殖を示すバイオイメージング検査での発光強度が12週以降で減少した推移と一致した。 NCAMは、未熟シュワンのマーカーでもあり、4週、8週と発現が高く、12週で減少していた。同様に、血管新生に関わるVEGFを反映するCD31(血管内皮に発現)も4,8週と増え、12週で神経内から減少していた。これらを受けて、成熟シュワンのマーカーであるP0陽性細胞は週を追うごとに増えており、その内腔にPeripherine(末梢神経マーカー)陽性の神経線維が認められた。4週、8週と非移植群や自家移植群よりも優れた回復を見せた運動機能の推移と一致した。 LNGFR、THY-1、NCAMの3種表面マーカーでのヒトiPS細胞由来の移植細胞の安全性及び、効果に関して、マウスでの一定の結果を示せました。
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今後の研究の推進方策 |
最適な移植媒体の検討を引き続き行っている。 移植細胞の生存環境として最適でありながら、生体内で適切な時期に吸収される媒体を勧めている。 既に候補を決める段階まで来ており、今年度には、これらを用いてマウス及びラットへの移植媒体の検討を開始したい。移植媒体の検討として、既存の移植効果を示すとされるマウス由来のシュワン細胞を移植細胞として採用を考えており、これにより媒体の機能性評価を予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和元年度はマウス、試薬などにかかる費用が想定よりも少なかったため、実使用額が想定された使用額よりも少なくなりました。令和2年度は本研究最終年度であり急ピッチで移植実験を進めます。令和元年度の差額も使用することになると思います。
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