研究課題
本研究は、変形性膝関節症(膝OA)の早期の病態に焦点をあて、我々の過去の研究成果をふまえ、主に骨棘と半月板逸脱(MME)、そしてヒアルロン酸(HA)分解の機序について、基礎及び臨床の両面から行うことで、膝OAの関節軟骨の摩耗の機序解明を目指している。[1] MME進行と骨棘幅拡大の関連性の検討: 米国NIH主導の膝OA大規模コホート研究OAI4,796名のデータベースを取得した。共同研究者のスウェーデン・Lund大学のEnglundらがすでに抽出した膝OA未発症群552名の8年にわたるデータも確認した。そして、WORMS評価と申請者らが考案したT2 mapping MRI法による軟骨棘を含めた骨棘、MME、半月板および関節軟骨変性の縦断的な解析と評価を進めた。さらに、T2 mapping MRI法に代わりMRI proton density-weighted imaging(PDWI)を用いた骨棘軟骨成分検出法の確立を進めた。[2] パールカンによる滑膜間葉系細胞の軟骨分化制御機序: 軟骨及び滑膜のECMに存在するヘパラン硫酸プロテオグリカンであるパールカン遺伝子を滑膜で欠損したマウスでは、膝OA誘導時の骨棘形成が阻害されるが、その膝OA誘導後早期の解析を進めた。そして、軟骨摩耗の程度にコントロール群との間に差を認めないものの、骨棘形成初期の滑膜間葉系細胞から軟骨分化が抑制され、滑膜に発現するパールカンがTGFβのシグナルの下流でSmad2/3のリン酸化を制御することを示した。[3] HYBID遺伝子欠損マウスの膝OAモデルでの解析: 膝OA早期の変化としての軟骨のHA分解には、既知のHYAL2/CD44やHYAL1に加え、新規分子HYBIDが重要な役割を担う。HYBID遺伝子欠損を用い、膝OAを誘導し、4週と8週後の膝OA重症度をOARSIスコアにて組織学的評価をすすめた。
2: おおむね順調に進展している
上記の如く、H30年度には[1]から[3]まですべての研究のサブテーマを順調に進めることができた。そして、本研究を立案するに至った「早期膝OAの機序」についての仮説について、それに矛盾することなく、さらにその仮説の信憑性を高めるに足りるデータを取得することができた。従って、計画通りに次年度も検討を重ねていきたいと考えている。
本研究課題は、変形性膝関節症(膝OA)について、大きく3つの柱から成り立っている。ひとつは、早期膝OAの進行因子としての内側半月板逸脱(MME)と骨棘の関連性を検討する臨床研究であり、他の二つは、膝OAの初期変化としての骨棘の形成過程及び軟骨変性過程についての基礎研究である。臨床研究では、膝OAの早期から初期変化を起こすリスク因子としてのMMEと骨棘の関連性を示すことが大きな目標であり、これには膝OAという疾患が緩徐な進行過程を示すため、多くの登録数と長期にわたる観察期間を持つコホートを用いることが必要となる。その実現に向けて、H30年度には米国NIHが持つOAIのデータを取得することができた。次年度以降この解析を進める。特にこの6000名を超えるデータの中でも、発症前の早期膝OAのデータの抽出を行うことは容易ではないが、これについても共同研究者のスウェーデン・Lund大学のEnglund博士からその情報提供を受けており、対象者の抽出と解析が進められるものと考えている。基礎研究についても、軟骨及び滑膜のECMに存在するヘパラン硫酸プロテオグリカンであるパールカンの機能解析を通じて、骨棘の形成過程の早期の病態である滑膜に存在する間葉系細胞の軟骨分化の機序についての新たな知見を得ることができた。次年度は、今年度に得た知見の論文化を進める。さらに、軟骨及び滑膜に発現し膝OA初期の変化の一つである軟骨のヒアルロン酸分解の機序についても、新規HA分解因子であるHybid遺伝子欠損マウスを用いた膝OAモデルを順調に進めることができた。次年度は、このモデルの解析を進め、膝OA早期のヒアルロン酸分解の遅延が可能か否か、そして関節軟骨の変性や分解も阻害可能か否かを検討していく予定である。
平成30年度は、上述の如く、概ね順調に計画を進めることができた。大きくは臨床研究と基礎研究の2本立てからなる本計画において、基礎研究で使用する研究費が当初の予定よりも少なかったことが次年度使用額を生じた主な理由である。平成31年度は、当初の計画通り基礎研究を進めるとともに、平成30年度の臨床研究の結果から生じた疑問を解決するため、基礎研究も進めていくため、実験に使用するために研究費を使用する割合が増加することが予想される。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (18件) (うち国際共著 3件、 査読あり 9件、 オープンアクセス 10件) 学会発表 (32件) (うち国際学会 12件、 招待講演 9件)
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