研究課題
本研究は、変形性膝関節症(膝OA)の早期の病態に焦点をあて、我々の過去の研究成果をふまえ、主に骨棘と半月板逸脱(MME)、そしてヒアルロン酸(HA)分解の機序について、基礎及び臨床の両面から行うことで、膝OAの関節軟骨の摩耗の機序解明を目指している。[1] プロトン強調MRI像(PDWI)を用いた骨棘の評価:膝OAの骨棘は、病態の二次的な反応性変化であり、疾患の発症や進行には重要な役割を持たないと考えられてきた。しかし、近年骨棘は軟骨摩耗よりも先に発生しており、さらに、我々は、T2マッピングMRIを用いて膝OAの骨棘は骨成分に加え軟骨成分が存在し、それが早期から形成され、さらに脛骨近位内側の骨棘幅がMMEと密接に相関することを示した(ART2017)。しかし、T2マッピング一般的ではない。そのため、PDWI MRI像を用いて骨棘の評価が正確に可能であること示した。[2] MME進行と骨棘幅拡大の関連性の検討:我々が示した「MMEの程度は、脛骨近位内側の骨棘幅と密接に関連する」というエビデンスが広く一般的に認められる現象であることを示すため、本学スポートロジーセンターにおいて展開してきた文京ヘルススタディーのデータベースを用い、また上記[1]で確立したPDWI MRI像を用いて解析を進めた。そして仮説の通り、1,000名を超える高齢者一般住民コホートではMMEがほぼ全例に認められ、そしてMMEは脛骨近位内側骨棘幅と関連し、かつ高い一致率を示すことを明らかにした。[3] HYBID遺伝子欠損マウスの膝OAモデルでの解析:膝OA早期の変化としての軟骨のHA分解には、既知のHYAL2/CD44やHYAL1に加え、新規分子HYBIDが重要な役割を担う。HYBID遺伝子欠損マウスに膝OAを誘導し、Hybidの膝OAにおける病態解析を進めた
2: おおむね順調に進展している
上記の如く、2019(H31/R1)年度には、[1]から[3]まですべての研究のサブテーマを順調に進めることができた。そして、本研究を立案するに至った「早期膝OAの機序」についての仮説について、それに矛盾することなく、さらにその仮説の信憑性を高めるに足りるデータを取得することができた。従って、計画通りに次年度も検討を重ねていきたいと考えている。
本研究課題は、変形性膝関節症(膝OA)について、大きく3つの柱から成り立っている。ひとつは、早期膝OAの進行因子としての内側半月板逸脱(MME)と骨棘の関連性を検討する臨床研究であり、他の二つは、膝OAの初期変化としての骨棘の形成過程及び軟骨変性過程についての基礎研究である。臨床研究では、膝OAの早期から初期変化を起こすリスク因子としてのMMEと骨棘の関連性を示すことが大きな目標であり、これには膝OAという疾患が緩徐な進行過程を示すため、多くの登録数と長期にわたる観察期間を持つコホートを用いることが必要となる。その実現に向けて、2019年度には本学スポートロジーセンターにて進めている大規模コホート研究・文京ヘルススタディーのデータを用いて、高齢者では多くが早期から初期膝OAを呈し、そしてMMEは脛骨内側骨棘幅と密接に関連することを示す。そしてそれを日常臨床でも容易に捉えることができるようにするため、一般的なMRI撮影条件でそれを把握できるようにした。2020年度は、すでに取得済である米国NIHが持つOAIのデータを用いて、全世界的にもこの現象が再現されることを示す。特にこの6000名を超えるデータの中でも、発症前の早期膝OAのデータの抽出を行うことは容易ではないが、これについても共同研究者のスウェーデン・Lund大学のEnglund博士からその情報提供を受けており、対象者の抽出と解析が進められるものと考えている。基礎研究については、膝OAの重要な初期病変であることが示されつつある、骨棘の形成機序解明に向けて、新規ヒアルロン酸分解因子であるHybid遺伝子欠損マウスを用いた膝OAモデルの解析とともに、膝OA関節の骨棘と関節軟骨組織のプロテオミクス解析と、骨棘と関節軟骨細胞のスフェロイド(凝集体)による解析を進める。
2019(H31/R1)年度は、上述の如く、概ね順調に計画を進めることができた。大きくは臨床研究と基礎研究の2本立てからなる本計画において、両面において研究費をおおむね予定通りに使用した。2020(R2)年度は、当初の計画通り基礎研究を進めるとともに、前年度までの臨床研究の結果から生じた疑問を解決するため、基礎研究も進めていく予定である。
すべて 2020 2019
すべて 雑誌論文 (17件) (うち国際共著 3件、 査読あり 10件、 オープンアクセス 9件) 学会発表 (31件) (うち国際学会 16件、 招待講演 2件) 図書 (2件)
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