研究課題
本研究は、変形性膝関節症(膝OA)の早期の病態に焦点をあて、我々の過去の研究成果をふまえ、主に骨棘と内側半月板逸脱(MME)、そしてヒアルロン酸(HA)分解の機序について、基礎及び臨床の両面から解析を進め、膝OAの病態解明を目指している。[1] 高齢者の歩行速度の決定因子としての膝OA構造変化:高齢者の寿命の規定因子の一つである歩行速度と関連するMRIにて検出できる膝OAの病態を検討した。65歳以上の高齢者74名(平均72.2歳、単純X線膝OA重症度:初期27%、進行期34%、末期39%)の歩行速度(0.73 m/s)の決定因子としてのMRIにて検出される膝OA病変(軟骨病変、骨髄異常陰影、軟骨下骨陥凹、軟骨下骨嚢胞、半月板損傷、骨棘、滑膜炎、MME)は、MMEであった。[2] 高齢者のMMEと関連する膝OA構造変化:本学で展開中の高齢者住民コホート研究(約1,600名が対象)の初回測定値を用いて、高齢者のMMEと関連するMRIにて検出される膝OA病変を検討した。その結果、先行研究(Arthritis Res Ther 2017)と同じく、脛骨骨棘幅がMMEと一致し、かつ最も強い関連因子であった。[3] 膝OAモデルによるHYBIDの機能解析:新規ヒアルロン酸分解酵素のHYBIDの遺伝子欠損マウスの膝OA誘導の解析を進め、膝OA早期の軟骨のHA分解には、既知のHYAL2/CD44やHYAL1に加え、Hybidが重要な役割を担うことを示した。[4] 骨棘の軟骨成分の軟骨分化能の解析:骨棘の形成初期の制御に重要な、滑膜間葉系細胞からの軟骨分化の機序解明のため、関節軟骨由来の軟骨細胞を対照として、骨棘の軟骨成分から軟骨分化能の機序解析を進めた。
3: やや遅れている
上記の如く、2020(令和2)年度には、[1]から[4]まですべての研究のサブテーマを順調に進めることができた。そして、本研究を立案するに至った「早期膝OAの機序」についての仮説について、それに矛盾することなく、さらにその仮説の信憑性を高めるに足りるデータを取得することができた。しかし、コロナウィルス感染症のまん延に伴い、国内外の学会が中止もしくは縮小あるいは中止となった。そのため、成果の発表が十分には行えなかった。そこで、研究期間をさらに1年延長し、研究を進めていきたいと考えている。
本研究課題は、変形性膝関節症(膝OA)について、大きく3つの柱から成り立っている。ひとつは、早期膝OAの進行因子としての内側半月板逸脱(MME)と骨棘の関連性を検討する臨床研究であり、他の二つは、膝OAの早期変化としての骨棘の形成過程及び軟骨変性過程についての基礎研究である。臨床研究では、膝OAの早期から初期変化を起こすリスク因子としてのMMEと骨棘の関連性を示すことが大きな目標であり、これには膝OAという疾患が緩徐な進行過程を示すため、多くの登録数と長期にわたる観察期間を持つコホートを用いることが必要となる。その実現に向けて、2019年度から本学スポートロジーセンターにて大規模コホート研究・文京ヘルススタディーを進めている。また、すでに取得済である米国NIHが持つOAIのデータを用いて、全世界的にもこの現象が再現されることを示す。特にこの6000名を超えるデータの中でも、発症前の早期膝OAのデータの抽出を行うことは容易ではないが、これについても共同研究者のスウェーデン・Lund大学のEnglund博士からその情報提供を受けている。基礎研究については、膝OAの重要な早期病変であることが示されつつある、骨棘の形成機序解明に向けて、新規ヒアルロン酸分解因子であるHybid遺伝子欠損マウスを用いた膝OAモデルの解析とともに、膝OA関節の骨棘と関節軟骨組織のプロテオミクス解析と、骨棘と関節軟骨細胞のスフェロイド(凝集体)による解析をさらに進めていく
2020(R2)年度は、上述の如く、概ね順調に計画を進めることができた。大きくは臨床研究と基礎研究の2本立てからなる本計画において、コロナウィルス感染症の蔓延拡大により、研究成果の発表を予定していた国際学会と国内学会が中止やweb上での開催となったため、旅費を中心に研究費を2021年度に持ち越しとなった。このため、2021(R3)年度も前年度までの臨床研究の結果から生じた疑問を解決するため、基礎及び臨床研究を進めることができるように申請の延長を願い出た。
すべて 2021 2020 その他
すべて 雑誌論文 (11件) (うち査読あり 9件、 オープンアクセス 6件) 学会発表 (29件) (うち国際学会 9件、 招待講演 9件) 図書 (3件) 備考 (1件)
Journal of Orthopaedic Science
巻: 26 ページ: 149~155
10.1016/j.jos.2020.02.010
Knee Surgery, Sports Traumatology, Arthroscopy
巻: Jan 2 ページ: Jan 2
10.1007/s00167-020-06406-6
Calcified Tissue International
巻: 106 ページ: 95~103
10.1007/s00223-019-00619-9
SICOT-J
巻: 6 ページ: 4~4
10.1051/sicotj/2020001
The American Journal of Pathology
巻: 190 ページ: 1046~1058
10.1016/j.ajpath.2020.01.003
整形・災害外科
巻: 63 ページ: 519-529
巻: 25 ページ: 1084~1092
10.1016/j.jos.2020.01.011
FASEB BioAdvances
巻: 2 ページ: 365~381
10.1096/fba.2019-00080
JCSM Clinical Reports
巻: 5 ページ: 79-85
整形外科
巻: 71 ページ: 787-793
糖尿病・内分泌代謝科
巻: 51 ページ: 264-269
https://www.juntendo.ac.jp/hospital/clinic/seikei/about/disease/kanja02_01.html