研究課題
本研究は、変形性膝関節症(膝OA)についての我々の過去の研究成果をふまえ、主に骨棘と内側半月板逸脱(MME)、そしてヒアルロン酸(HA)分解の機序について、基礎及び臨床の両面から行うことで、膝OAの早期の病態機序解明を目指している。[1] 歩行速度と関連する膝OA病変:移動機能維持は、健康寿命延伸の実現には必須の課題である。膝OAの有病率は極めて高く、高齢者の膝OA変化は移動機能と密接に関連する。高齢者の歩行機能は、移動機能の指標のみならず、寿命の指標の一つである。そこで、高齢者の歩行速度と関連するMRI上の膝OA構造変化は、関節軟骨病変や軟骨下骨病変、滑膜炎や半月板損傷などではなく、MMEであることを明らかにした。[2] MMEと脛骨骨棘幅の関連:本学スポートロジーセンターにおいて展開中の高齢者住民コホート・文京ヘルススタディー(BHS)のデータを用い、我々が過去に示した「MMEの程度は、脛骨近位内側の骨棘幅と密接に関連する」というエビデンスが広く一般的に認められることを示した。1,000名を超える対象者のT2マッピングMRI撮影は困難であるため、PDWI MRI像にて骨棘の正確な評価が可能であり、さらにMMEをほぼ全例に認め、MMEは脛骨近位内側骨棘幅と関連しかつ高い一致率を示すことを示した。[3] 新規HA分解酵素・HYBIDの膝OA早期の機能解析:新規HA分解酵素のHYBIDの遺伝子欠損マウス(Hybid-KO)に膝OAを誘導し、Hybid-KOでは野生型と比較し膝関節内のHA低分子化が抑制され、膝OA進行が遅延した。さらに、野生型の膝OA誘導モデルへの高分子HA関節内投与により、膝OA進行が遅延した。以上より、膝OA早期の病態としてのHA分解には、既知のHYAL2/CD44やHYAL1に加え、HYBIDが重要な役割を担うことを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
上記の如く、2021(R3)年度には、[1]から[3]まですべての研究のサブテーマを順調に進めることができた。そして、本研究を立案するに至った「早期膝OAの機序」についての仮説について、それに矛盾することなく、さらにその仮説の信憑性を高めるに足りるデータを取得することができた。
本研究課題は、早期膝OAの進行因子としての内側半月板逸脱(MME)と骨棘の関連性を検討する臨床研究と、膝OA早期の変化としての骨棘の形成過程及び軟骨変性過程についての基礎研究からなる。臨床研究では、膝OAの早期から初期の変化を起こすリスク因子として、MMEと骨棘の関連性を示すことが大きな目標である。これには、2022年度には本学スポートロジーセンターにて進めている大規模コホート研究・文京ヘルススタディー(BHS)のデータを用いて、高齢者の大部分が初期膝OAを呈し、MMEが脛骨内側骨棘幅と密接し、かつMMEへ脛骨骨棘幅と高い一致率を呈することを示す。これにより、今後膝OAの早期の段階における診断と治療の実現に向けて、骨棘とMMEに注目し、かつその制御法を開発することの重要性の認知度を高めていく。さらには、すでに取得済である米国・NIHによる大規模住民コホートOsteoarthritis Initiative(OAI)のデータを用いて、膝OA早期から初期でのMMEと脛骨骨棘幅の関連が、全世界的にも一般的に認められる現象であることを示す。しかし、6000名を超えるOAIデータの中でも、発症前の早期膝OAのデータの抽出を行うことは容易ではない。この課題については、共同研究者のスウェーデン・Lund大学のEnglund博士からすでに本件についての情報提供を受けているため、解析を進められるものと考えている。基礎研究では、膝OA早期の重要な病変である骨棘の形成機序解明を進める。新規ヒアルロン酸分解因子であるHybidについて、Hybid遺伝子欠損マウスを用いたさらなる解析とともに、膝OA関節の骨棘と関節軟骨組織のプロテオミクス解析と、骨棘と関節軟骨細胞のスフェロイド(凝集体)による解析を進める。
2021(R3)年度は、上述の如く、大きくは臨床研究と基礎研究の2本立てからなる本計画において、概ね順調に計画を進めることができた。しかし、新型コロナウィルス感染症の影響を受け、ほぼすべての学会がweb上での開催となったことをうけ、出張費を中心に次年度(2022年度)に繰越手続きを行った。2022(R4)年度は、当初の計画通り基礎及び臨床研究を進める。
すべて 2022 2021 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (14件) (うち国際共著 1件、 査読あり 9件、 オープンアクセス 6件) 学会発表 (35件) (うち国際学会 7件、 招待講演 15件) 図書 (5件)
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