研究課題
本研究は、変形性膝関節症(膝OA)、特に早期の病態解明を目指し、我々の過去の研究成果をふまえ、主に骨棘と内側半月板逸脱(MME)、そしてヒアルロン酸(HA)分解の機序について、基礎及び臨床の両面から病態機序を検討した。[1] MMEと脛骨骨棘幅の関連:本学スポートロジーセンターにおいて展開中の高齢者住民コホート・文京ヘルススタディー(BHS)のデータを用い、我々が過去に示した「MMEと脛骨近位内側骨棘幅の関連」というエビデンスが、広く一般的に認められることを示した研究成果を論文にまとめ2022年9月に投稿した。1,000名を超える平均72.9歳の対象者に、高齢者ではMMEを全例に認め、MMEは脛骨近位内側骨棘幅と関連しかつ高い一致率を示すことを示した。[2] 前十字靭帯損傷患者の靭帯再建術前後の脛骨骨棘成長と内側半月板逸脱の変化との関連: [1]と同様に、MMEと脛骨骨棘幅との密接な関連は、横断研究でよる成果のため、その因果関係を言及することがでなかった。そこで、平均年齢30歳の前十字靭帯(ACL)損傷患者を対象に、ACL再建術前後で2回膝関節MRIを行い解析いた結果、約7か月の間に約2mm程度MMEの拡大を認め、これと最も関連する因子は脛骨内側骨棘幅の変化率あった。[3] 新規HA分解酵素・HYBIDの膝OA軟骨における機能解析:新規HA分解酵素のHYBIDの関節軟骨における発現は、正常軟骨と比較して膝OA関節軟骨において有意に高く発現していること、そしてin vitroにて関節軟骨におけるHYBIDの発現はIL-6とTNF-αにて有意にに発現が亢進することを示した。以上より、HYBIDは、膝OAにおいて、関節軟骨でも滑膜でも発現が亢進し、膝OAの早期から関節内のヒアルロン酸低分子化に重要な機能を有する可能性が強く示唆された。
2: おおむね順調に進展している
上記の如く、2022(R4)年度には、[1]から[3]まですべての研究のサブテーマを順調に進めることができた。そして、本研究を立案するに至った「早期膝OAの機序」についての仮説について、それに矛盾することなく、さらにその仮説の信憑性を高めるに足りるデータを取得することができた。
本研究課題は、早期膝OAの進行因子としての内側半月板逸脱(MME)と骨棘の関連性を検討する臨床研究と、膝OA早期の変化としての骨棘の形成過程及び軟骨変性過程についての基礎研究からなる。臨床研究では、膝OAの早期から初期の変化を起こすリスク因子としてのMMEが、その近傍の脛骨側の骨棘の発達によって拡大していくことを占めることが大きな目標である。これには、2023年度には本学スポートロジーセンターにて進めている大規模コホート研究・文京ヘルススタディー(BHS)のデータを用いて、さらに解析を進めていく。これにより、今後膝OAの早期の段階における診断と治療の実現に向けて、骨棘とMMEに注目し、かつその制御法を開発することの重要性の認知度を高めていく。さらには、取得済の米国・NIHによる大規模住民コホートOsteoarthritis Initiative(OAI)のデータを用いて、MMEと脛骨骨棘幅が関連するという我々の仮説が全世界的にも認められる現象であることを示す。この課題については、共同研究者のスウェーデン・Lund大学のEnglund博士からすでに本件についての情報提供を受け解析を進めている。基礎研究では、膝OA早期の重要な病変である骨棘の形成機序解明を進める。特に、新規ヒアルロン酸分解因子であるHYBIDのヒアルロン酸分解機序のさらなる解析を進めていく。
2022(R4)年度は、上述の如く、臨床研究と基礎研究の2本立てからなる本計画において、概ね順調に計画を進めることができた。しかし、依然新型コロナウィルス感染症の影響を受け、多くの学会がweb上での開催となったことをうけ、出張費を中心に次年度(2023年度)に繰越手続きを行った。2023(R5)年度は、当初の計画通り基礎及び臨床研究を進める。
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すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (70件) (うち国際学会 15件、 招待講演 25件) 図書 (1件)
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