研究課題/領域番号 |
18K09094
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
日高 亮 東京大学, 医学部附属病院, 特任助教 (70761451)
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研究分担者 |
田中 栄 東京大学, 医学部附属病院, 教授 (50282661)
石原 一彦 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 教授 (90193341)
茂呂 徹 東京大学, 医学部附属病院, 特任准教授 (20302698)
高取 吉雄 東京大学, 医学部附属病院, 客員研究員 (40179461)
田中 健之 東京大学, 医学部附属病院, 助教 (00583121)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 医療・福祉 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、「生体細胞膜を模倣した生体親和性合成リン脂質材料・MPCポリマー(PMPC)による細胞・タンパク質の付着抑制効果」を基盤技術として「骨折治療用機器表面のPMPC処理方法」を確立し、「細菌付着・バイオフィルム形成の抑制による感染・偽関節の阻止を目指した革新的な骨折治療法」を創出するための基礎研究を完成させることである。骨折治療における感染・癒合不全は深刻な合併症である。日本発の独自材料により、「工業的製造に対応できる簡便なプロセス」または「臨床上行われている消毒操作」というシンプルな方法で骨折治療用医療機器の表面に細菌付着・バイオフィルム形成抑制層を形成するところに本研究の独創性がある。医工連携研究により「PMPC処理条件の最適化」、「in vitro/vivo感染症モデルを用いた細菌付着・バイオフィルム形成抑制効果の検討」という2つのサブテーマに取り組み、革新的な骨折治療法を創出し、助成期間終了後に速やかに臨床試験に移行できるように基礎研究を完成させる。今年度は、以下の検討を行った。 1. PMPC処理条件の最適化: PMPCによるナノ表面処理について、PMPCの組成、溶液濃度、処理時間等を変化させ、至適条件を検索した。 2. In vitro/vivo感染症モデルを用いた細菌付着・バイオフィルム形成抑制効果の検討 1) タンパク質吸着抑制効果および処理表面の電荷を計測した。2)「1. PMPC処理条件の最適化」で絞り込んだ処理方法でディスク表面をPMPC処理し、静置環境におけるIn vitro感染モデルに用い、バイオフィルム形成黄色ブドウ球菌等の付着抑制効果・バイオフィルム形成抑制効果を検討した。 以上の結果は、革新的な骨折治療法を創出するための基礎検討を推進するための確信を得るに十分な結果であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1. PMPC処理条件の最適化(達成度100%) ステンレス、チタン合金表面のPMPCによるナノ表面処理について、PMPCの組成、溶液濃度、処理時間等を変化させ、至適条件を検索した。試料表面を、a)X線光電子分光分析、b)赤外分光光度分析で観察し、PMPCユニットの同定および処理率を計測した。さらにc)透過型電子顕微鏡にて処理層の厚みを測定した。また、d)表面の水接触角を測定し親水性を評価した。 2. In vitro/vivo感染症モデルを用いた細菌付着・バイオフィルム形成抑制効果の検討(達成度100%) 1) タンパク質吸着抑制効果の検討:骨折治療用医療機器表面ではまずタンパク質が吸着し、この吸着層に細菌が付着する。そこで、タンパク質の吸着量をビシンコニン酸法により定量する系用い、PMPC処理によるステンレス、チタン合金表面へタンパク質吸着が抑制されることを確認した。また、表面の電荷を、ゼータ電位測定により評価した。 2) In vitro感染モデルにおける評価: PMPCで表面処理したディスク表面に手術部位感染(SSI)の主な病原菌である、バイオフィルム形成黄色ブドウ球菌を播種した。37℃にて静置培養後、試験片を回収して観察・評価をし、その表面では細菌付着が99%以上抑制されること、バイオフィルム形成が抑制されることを明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
1. PMPC処理条件の最適化: 30年度のタンパク質吸着抑制効果の検討、表面電位の検討、静置環境における感染抑制効果の結果をフィードバックし、細菌付着・バイオフィルム形成を効率的に阻止する至適処理条件を確立する。a)X線光電子分光分析、b)赤外分光光度分析、c)透過型電子顕微鏡による処理層の厚み測定、d)表面の水接触角計測等により評価する。 2. In vitro/vivo感染症モデルを用いた細菌付着・バイオフィルム形成抑制効果の検討 1) In vitro感染モデルにおける評価: 1.で絞り込んだ処理方法を用い、ステンレス、チタン合金製のディスク表面をPMPC処理する。24穴プレート中に試験片を配置し、細菌を播種する。細菌は手術部位感染(SSI)の主な病原菌である、バイオフィルム形成黄色ブドウ球菌等を使用する。37℃にて流動培養後、試験片を回収し、以下の検討を行う。a)付着生菌数測定、b)蛍光顕微鏡観察、c)走査型電子顕微鏡観察、d)バイオフィルム厚の評価。また、予め形成させたバイオフィルムに対して流動環境下で抗菌薬を24時間作用させ、PMPC処理によるバイオフィルム形成抑制効果を検討する。 2) マウス皮下感染モデルにおける評価:マウスの背部皮下に試験片を挿入後、細菌を接種して縫合する。3日後に試験片を摘出して以下の検討を行う。a)付着生菌数測定、b)蛍光顕微鏡観察、c)走査型電子顕微鏡観察、d)バイオフィルム厚の評価。
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次年度使用額が生じた理由 |
In vitro感染モデルに使用する試験片の購入を予定していたが、表面の研磨、表面処理、滅菌の工程に時間を要し、今年度中の納品ができなかったため、31年度に発注・購入することとした。なお、このことにより研究が遅れることはない。
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