基質を吸収する唯一の細胞として、マクロファージ系の多核細胞である破骨細胞が知られている。この細胞の分化の過程で転写因子Nfatc1の発現が著増するが、増えているのは短いアイソフォーム(以後short formと呼称)のみである。各アイソフォームの標的遺伝子の異同については明らかになっていない。また、short form発現の上限を規定するネガティブフィードバックのメカニズムも不明である。本研究はNfatc1 short form特異的な遺伝子欠損マウスの作出・解析を通じてshort formの特異的な役割を明らかにし、また発現調節のメカニズムの一端に迫ることを目的とした。作出したヘテロノックアウトマウスを交配し、ホモノックアウトマウスを取得することを試みた。新生仔にはホモのノックアウトマウスはおらず、胚性致死であることが強く示唆された。実際、胎生13.5日の時点でホモノックアウトマウスは死亡しており、その直前で肝細胞を採取して培養しても破骨細胞は分化しない。野生型やヘテロノックアウトマウス由来の肝細胞であれば破骨細胞を誘導することができる。これは胎仔肝細胞に造血幹細胞が含まれているためである。意外なことに、造血細胞の培養条件で肝細胞を培養してもホモノックアウトマウスの場合はコロニーをほとんど形成しない。つまりこのノックアウトマウスにおいては肝臓における造血幹細胞の分化自体に障害があることが伺える。胎生10.5日の時点の胎仔の大動脈・性腺・中腎領域から破骨細胞分化を誘導すると、野生型では破骨細胞の分化が見られるがホモノックアウトでは融合細胞が認められず、Nfatc1のshort formが破骨細胞分化に必須であることが示された。
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