軟骨組織においてメカニカルストレスが細胞骨格を変化させ変形性関節症(OA)の病態に関わっていることは広く知られているものの、その詳細な分子メカニズムは依然として不明のままである。新たなin vitro OA modelの確立とともにOA発症に至る機序の一部を明らかにすることが本研究の目的である。 まずはin vitro OA modelの確立を目標とし、生後8週齢のC57BL/6の大腿骨を組織ごと三次元力学的刺激装置を用いて圧負荷を加えながら、各種試薬(IL-1β、ERK阻害剤、ヒアルロン酸、Kartogeninなど)を加えて一定時間器官培養を行い、real time PCRおよび組織切片の免疫染色を行った。メカニカルストレスが各種炎症性サイトカインシグナルおよび関節軟骨破壊を増強する傾向を認めた一方で、新規治療薬候補として関節軟骨保護作用が期待されるヒアルロン酸やKartogeninを添加してもそれらの抑制には至らなかった。 またメカニカルストレスを加えずに蛋白分解酵素の一種であるActinaseを添加するだけでも、軟骨基質が消失した部位の細胞は膨化傾向を認め、メカニカルストレスを加えた際と同様にreal time PCRおよび組織切片においてOA変化に近い状態(細胞骨格の一種であるVimentinや、関節軟骨保護に働くプロテオグリカンの一種であるLubricinの発現)が惹起されることが確認された。これにより組織学的なOA変化の直接的なトリガーが、メカニカルストレスではなく細胞の膨化現象そのものである可能性が示唆され、これはOA発症に至る機序についての学術的な新たな知見と考えられた。
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