研究課題/領域番号 |
18K09121
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研究機関 | 一般社団法人プラズマ化学生物学研究所 |
研究代表者 |
鈴木 良弘 一般社団法人プラズマ化学生物学研究所, 研究部, 代表理事 (80206549)
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研究分担者 |
安藤 隆 山梨大学, 大学院総合研究部, 講師 (10377492)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | アポトーシス / 非アポトーシス / 骨肉腫 / カルシウム / ミトコンドリア / TRAIL / プラズマ / 脱分極 |
研究実績の概要 |
骨肉腫細胞のカルシウム流入に対するミトコンドリアカルシウム(MCA)変調剤の作用:プラズマ照射液(PSM)は細胞質内カルシウム(CCA)及びMCAを上昇させたが、CCAが濃度依存的に上昇するのに対してMCAの増加効果はPSM濃度の増加とともに減少した。TRAILもCCAならびにMCAを増加させたが、その効果はPSMに比べて弱かった。一方、膜脱分極作用を持つKCl、グリベンクラミド、U37883AはCCAを減少させ、両者の併用はより著しく減少させた。これらの結果からMCAの増加は、ミトコンドリアのカルシウムリザーバー機能によるものだけではないと考えられた。またPSMはストア依存性カルシウム流入 (SOCE)を強く抑制した。TRAIL及び膜脱分極剤も単独でSOCEを抑制し、両者の併用ではより強い抑制効果が見られた。PSMが持続的な膜電位の脱分極を強く誘発することから、MCA変調には、(1)SOCEとは別の膜電位依存性輸送経路からのカルシウム流入が起きること、(2)この経路の活性化はSOCEを抑制することが示唆された。 MCA変調による骨肉腫細胞死のメカニズム解析: MCA変調によってアポトーシスが誘発されるかどうかを検討するため、Annexin V及び7-actinomycin D (7-AAD)染色後にフローサイトメトリーで解析した結果、Annexin V陽性細胞は全く増加しなかった。カスパーゼ-3/7活性化は検出されたが、カスパーゼ阻害剤Z-VAD-FMKは全く細胞死を抑制しなかった。ネクロトーシス特異的阻害剤necrostatin-1は一部の細胞株でのみ細胞死を有意に抑制した。これらの細胞では、ネクロトーシス誘発に必要なRIP1/3のリン酸化が刺激後10分から検出されたことから、ネクロトーシスが活性化されることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
おおむね順調に進捗している。理由:本年度はMCA変調による骨肉腫細胞死の機序の解明が大きな目標であったが、細胞死の機序と同様に重要な課題としてなぜMCA変調が生じるかを明らかにする必要があった。二つの異なるMCA変調剤(PSMとTRAIL/膜脱分極剤)をモデルに用いて解析を行った結果、SOCE抑制がMCA変調に共通に寄与することが明らかにできた。さらに、このSOCE抑制には膜電位依存性カルシウム輸送経路からのカルシウム流入によるCCA及びMCAの増加が付随することが示唆されたことから電位差依存性カルシウムチャネルの関与が考えられ、次年度の課題と考えられる。細胞死のモードに関しては、アポトーシスではなくネクロトーシスが関与することを明らかにできた。しかし、ネクロトーシスの特異的阻害剤の効果は限定的であるため、このモードが決定的な因子かどうかはまだ不明である。一方、オートファジーは細胞保護的に働き、PSM及びTRAIL/膜脱分極剤による細胞死のメディエーターではないことが示された。
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今後の研究の推進方策 |
MCA変調による骨肉腫細胞死におけるパラトーシス、フェロトーシスの関与の検討:ネクロトーシス様細胞死の一つであるパラトーシスはカルシウム依存性であることが報告されており、MCA変調による細胞死ではパラトーシスの形態学的特徴であるミトコンドリア及び小胞体の膨潤ならびに細胞質の空包化が観察されることから有力な候補である。また、MCA変調による細胞死は活性酸素依存性であることをすでに報告したが、鉄依存性細胞死であるフェロトーシスも活性酸素が重要なメディエーターであることから、この関与も考えられるので鉄キレート剤や特異的阻害剤フェロスタチン1が細胞死に影響するかどうかを検討する。 MCA変調による骨肉腫細胞死におけるミトファジーの関与:骨肉腫細胞では細胞死刺激がなく、飢餓が起きない条件下においても多数のオートファゴソーム斑点とLC3-IIの発現が観察され、オートファジー阻害剤はこのオートファジーフラックスを抑制する一方で、細胞死を誘発した。さらに、オートファジーの抑制はMCA変調剤(PSMとTRAIL/膜脱分極剤)による細胞死及びミトファジーを著しく増強した。これらの結果は、マクロオートファジーが細胞保護的に働くのに対してミトファジーは細胞死の誘発に関与することを示唆する。ミトファジーはミトコンドリアの膜電位消失によって誘発され、その分裂によって起こるが、MCA変調はこれらの細胞内イベントを誘導することから、ミトファジーの過剰活性化が細胞死の重要なメディエーターである可能性が想定されるのでこの仮説を検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は研究代表者の平成30年度中の研究機関移動の結果、前研究機関での平成30年度助成金の全額使用ができなくなったことによる。 翌年分として請求した直接経費は他の直接経費とともに研究機器購入費に、間接経費は謝金として使用する計画である。
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