研究実績の概要 |
前立腺癌に対するアンドロゲン遮断療法 (ADT: androgen deprivation therapy)は癌細胞の増殖に関与するアンドロゲン受容体 (AR: androgen receptor)の働きを制御することを目的としている。ADTにて長期生存する症例もあれば、比較的早期に去勢抵抗性前立腺癌 (CRPC: castration resistant prostate cancer)となり癌死に至る症例がある。我々はこれまでにレーザーマイクロダイセクション法を用いて、前立腺針生検パラフィン標本から腫瘍細胞、間質細胞を別々に採取してRT-PCRを行い、アンドロゲン・エストロゲンシグナル、幹細胞マーカーの発現様式によってADTの治療感受性と生命予後を予測できることを示した。しかしながら、個々の症例に応じたプレシジョンメディシンを行うには、簡便な手法の開発が必要である。 本研究の目的は前立腺針生検パラフィン標本を用いて転移性前立腺癌症例の癌特異的生存を簡便な手法で予測することである。 対象は未治療の転移性前立腺癌103例。エストロゲン・アンドロゲンシグナルマーカー、幹細胞マーカーに加えて内性コントロールとして癌由来間質細胞マーカーX, 良性前立腺上皮組織のマーカーY, および良性間質細胞マーカーZを加えて、RT-PCR法を行い臨床病理学的遺伝子との関連を解析した。 Cox比例ハザードモデルを用いた解析にてX発現はHazard ratio 0.53, 95%信頼区間0.33-0.89, P= 0.017であり、有意に癌死のリスクを下げていた。Kaplan-Meier法生存曲線ではX高発現は有意に予後良好であった。本研究にて診断時のパラフィン標本から比較的簡易で定量的にADTの耐久性を診断することができた。
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