研究実績の概要 |
今年度は、脂肪組織由来放射線被爆間質細胞(Adipose tissue stromal cells:以下ATSCs)と浸潤性膀胱癌との細胞間相互作用について、collagen gel invasion assay systemを用いて検討を行った。間質細胞のコントロールとしてNIH3T3 fibroblastsとの共培養を行い、ATSCs群との比較検討を行った。癌細胞浸潤をゲル内浸潤にて評価し、細胞動態を免疫組織化学、抗体array、Western blotにて解析を行った。また遺伝子不安定性を検討するため、53BP1の蛍光免疫染色を行い、核内fociの集積を観察し検討を行った。放射線被爆ATSCsは非浸潤性膀胱癌の増殖を抑制し、アポトーシスを促進した。一方、浸潤性膀胱癌は、放射線被爆ATSCsによりゲル内増殖・浸潤が促進された。放射線被爆NIH3T3 fibroblasts との共培養でも同様に、ゲル内増殖・浸潤が促進されたが、ATSCsとの共培養群の方がより変化が大きかった。抗体arrayやWestern blotで増殖に関与するMAPKK系のmoleculeの検索を行った。 p-ERK/ERK, p-p38/p38, p-Akt/Akt, p-mTOR/mTOR, p-70S6kinase, p-CREB,p-HSP27, p-JNK/JNKなどの分子が発現し、癌細胞動態の仲介因子と考えられた。また53BP1は、非浸潤性膀胱癌では、放射線被曝により細胞質から核内に集積が移行していたが、浸潤性膀胱癌では核内から細胞質へ逆に移行しており、これの現象も浸潤増殖に関与するのではないかと示唆された。 上記より、Radiation-induced bystander effectsにより、ATSCsが非浸潤性膀胱癌ではアポトーシス促進因子となるが、浸潤性膀胱癌では増殖・浸潤促進因子になることが示唆された。非浸潤性膀胱癌と浸潤性膀胱癌では、それぞれ異なるMAPK経路の細胞動態制御因子が癌の進展に関与すると考えられた。
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