2023年度は、NO合成酵素完全欠損マウスの心筋梗塞発症モデルの両側精巣摘除した群(ORX)と、同マウスに徐放性テストステロンチューブを植え込んだ群(ORX+テストステロン)の心筋を用いて、2022年度までに検討できていなかった慢性炎症関連物質のmRNA発現を比較検討した。NO合成酵素完全欠損マウスを用いた心筋梗塞発症モデルのORX群では、ORX+テストステロン群に比して、IL-6Rα発現が有意に低下していた。IL-6は、心筋梗塞時に発現が増加することが知られている。IL-6αはIL-6の受容体であることから、ORX群でのIL-6Rα発現低下が、IL-6産生の減少に起因するものなのか、あるいは逆にIL-6産生増加に起因するダウンレギュレーションの結果によるものなのかという疑問が生じた。そこでIL-6の産生誘導を惹起するMCP-1についても同様に検討したところ、ORX群では、ORX+テストステロン群に比して、MCP-1発現の有意な低下を認めた。この結果はIL-6Rαの結果と同様の傾向であったことから、ORX群におけるIL-6Rα発現低下は、IL-6産生低下によるものと考えられた。一方、アンジオテンシンⅡは、心筋梗塞の発症原因である動脈硬化を促進することが知られている。そこで、アンジオテンシンⅡの産生を担うACE(アンジオテンシン変換酵素)の発現についても同様に検討したところ、ORX群ではORX+テストステロン群に比して、ACE発現が有意に低下していた。この結果からORX群では、ORX+テストステロン群に比してアンジオテンシンⅡの産生が低下しており、動脈硬化の進展抑制により、心筋梗塞の発症が抑制されている可能性が示唆された。
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