研究課題
In vitroおよびin vivo試験系を用いてOncomodulin (OCM)の表現型解析及び機能解析を行った。得られた主な成果は以下の通りである。1) 昨年度に作製した雌雄のOCMホモ欠損ラット及び野生型ラットに膀胱発がん物質であるN-butyl-N-(4-hydroxybutyl) nitrosamine (BBN) を8週間飲水投与し、その後無処置で飼育した。実験開始23週後に解剖し、膀胱腫瘍の発生について病理学的解析を行った。その結果、雌雄共に、野生型ラットに比較して、OCMホモ欠損ラットにおいて膀胱腫瘍の発生頻度及び数が統計学的有意差はないものの減少傾向にあった。以上より、OCMはラット膀胱発がんに関与することを示した。2) ヒト尿路上皮初代細胞の不死化細胞において、OCMをTet-On発現誘導系を用いて導入した。その際、カルシウム結合ドメインをアミノ酸置換することでカルシウム結合能を低下させたOCM変異体も作製した。その結果、OCM変異体株では、野生型OCMで誘導された遊走及び浸潤関連遺伝子の発現変化が低下し、OCMはカルシウムシグナルを介して下流遺伝子の発現を制御することが強く示唆された。さらに、3) OCM過剰発現したヒト膀胱癌細胞株とヒト尿路上皮初代細胞由来の不死化細胞を比較した結果、共通して発現が誘導された因子としてアポトーシス阻害を同定した。4) OCMトランスジェニックマウスの作製において、膀胱尿路上皮でのOCM過剰発現を認める系統は得られなかったが、肝臓や腎臓などの別臓器にOCM過剰発現を認める系統が得られた。今後、肝臓や腎臓におけるOCMの発がん研究に有用なツールになり得ると考えられた。以上より、OCMを介した膀胱がん発症機構の一端が明らかになった。また、OCMは膀胱発がん過程の超早期から腫瘍にかけて継続して発現が増加する分子であることから、膀胱癌の超早期診断および発症予防に向けた基盤的な研究成果を提供できると期待される。
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