研究課題/領域番号 |
18K09150
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
篠島 利明 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 講師 (60306777)
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研究分担者 |
水野 隆一 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 講師 (60383824)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | HIF-2α / ヒストン修飾 |
研究実績の概要 |
細胞癌において重要な遺伝子変異はVHL-HIF経路の活性化につながるもののみならず、エピジェネシスの変化をもたらすものであることが複数の報告で示されている。これらエピジェネティクスを制御する遺伝子群の変異がもたらす腎細胞癌の進行・進展のメカニズムを明らかにするため、まず複数の腎癌細胞株でVHL-HIF経路に関係する癌関連遺伝子のヒストン修飾解析をクロマチン免疫沈降(ChIP)でおこなった。 本研究ではプローブ先端位置の微妙な設定等、手技が煩雑となるペンシル型のソニケーターではなく、バス型のソニケーターを用いたChIPプロトコールを確立した。当初はクロマチンの十分な断片化ができず難渋したが、クロスリンク条件やチューブの材質を工夫することで300bpを中心とする断片化が可能となった。腎癌細胞株はVHL遺伝性変異があるもの、wild typeのものを用いた。VHL-HIF経路の最上流に位置する転写因子であり、かつ主要なドライバー遺伝子であることが示唆されているHIF-2の解析をおこなった。解析対象とするプロモーター領域のヒストン修飾は、遺伝子発現を活性化するH3K4me3、H3K9ac、また発現を抑制するH3K9me3、H3K27me3とした。転写開始点を基準として-2kbp、+0.5kbp、+1kbp、+83kbpにターゲットのシークエンスを設定し、プロダクトサイズ100-150bp程度のPCRプライマーを設計した。その結果、HIF-2αを発現する細胞株では、活性修飾であるH3K4me3やH3K9acが、転写開始点近傍を結合のピークとし、-2kbpや+83kbpで著しく結合が下がることが示された。またHIF-2αを比較的強く発現している細胞株では、H3K27me3修飾が低下し、H3K4me3修飾がH3K9ac修飾よりも有意であることも明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
腎癌細胞株においてHIF-2αのプロモーター領域のヒストン修飾解析を初めておこない、活性化修飾が陽性であることが示された。また遺伝子発現の強さには、H3K27me3やH3K4me3修飾が関与している可能性も示唆された。HIF-2αのmRNA発現レベルは、ハウスキーピングジーンであるにもかからず腎細胞癌株間では多様であることが知られていたが、そのメカニズムの一端を明らかとすることで、これからの研究への扉を開いた感がある。
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今後の研究の推進方策 |
VHL-HIF経路の最上流に位置するもう1つの転写因子であり、パッセンジャー遺伝子であることが示唆されているHIF-1αに対して、同様のプロモーターヒストン修飾解析をおこなう。また各修飾に関わる酵素の阻害剤(ヒストンメチル化酵素阻害剤、脱メチル化酵素阻害剤等)、また修飾に関わる酵素特異的なsiRNAを用いてさらなる検討をおこないHIFαのエピジェネシスのメカニズムを解明する。またHIFαにより転写活性される癌関連遺伝子は多種存在するが、CXCR4ならびに CXCR7を次の解析の対象とする。これらの癌の転移・進行にかかわるケモカインレセプターは、mTORシグナル経路を介して腎細胞癌の治療耐性に関与している可能性、さらには腎細胞癌患者の予後と関連し、分子標的治療薬の効果予測マーカーとなりうる可能性が示唆されている。またオンラインの癌マイクロアレイデータベースの複数のデータセットにおいて臨床的な腎細胞癌検体での有意な発現亢進が示されている。しかしながら細胞株のオンラインマイクロアレイデータベースであるCancer Cell Line Encyclopedia (CCLE) では、VHL変異の有無だけでは説明困難な発現レベルの多様性があり、ヒストン修飾による発現調節がなされている可能性が予測されている。
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