研究課題
エピジェネシスを制御する遺伝子群の変異がもたらす腎細胞癌の進行・進展のメカニズムを明らかにするため、令和1年度は臨床検体を用いた以下の研究をおこない成果を得ることができた。1) 再発腎細胞癌症例におけるヒストン修飾とクロマチンリモデリングにかかわる遺伝子変異と臨床パラメーターとの関連解析:クロマチンリモデリングでは転写活性化を促すため、ATP駆動モーターであるSWI/SNFクロマチン構造変化分子複合体がクロマチン構造をほどくことが必要である。手術時には遠隔転移を伴っていなかった淡明細胞型腎細胞癌の臨床検体(術後再発あり26例、再発なし17例)に対してこれらエピジェネシスに関わる遺伝子のパネル解析をおこない、grade、病期、予後との関連を検討した。その結果PBRM1遺伝子に変異がある症例は有意に臨床病期が低いにもかかわらず、PFSやOSが不良であることが示された。これは病期診断に遺伝子変異の有無を加味することで、より正確な予後予測が可能となることを示唆しており、極めて有意義な知見であると考えられた。なおPBRM1はSWI/SNF複合体の標的サブユニットであり、アセチル化されたヒストンのリジン残基を認識することで、遺伝子の転写活化に関与していると考えられている。2) PBRM1変異と免疫関連遺伝子発現の関連解析:これまでにPBRM1の機能喪失変異は免疫チェックポイント阻害薬による治療を受けた進行腎細胞癌において予後良好因子であることが示唆されていることから、PBRM1変異と免疫関連遺伝子の発現の関連を解析した。組織マイクロアレイを用いて、CD3、CD8、FOXP3、CD68、CD163といった免疫細胞マーカーを染色し、発現を定量化した。PBRM1変異はCD68との有意な関連が示唆され、これはこれまでに報告されていない新規の知見であるため、さらなる解析を進めている。
2: おおむね順調に進展している
腎癌細胞株におけるHIF-2αのプロモーター領域のヒストン修飾解析に引き続き、エピジェネシスにかかわる遺伝子変異とHIF-2αの発現の関連を臨床検体で解析する過程で、凍結検体中のmRNAの品質が十分に担保されていないことが明らかとなったため、研究自体の若干の方向修正を強いられているが、おおむね順調に進捗している。
VHL-HIF経路に位置し、発癌の初期から重要なドライバー遺伝子として機能しているHIF2αのエピジェネシスの解析を進める。ヒストン修飾のみならずクロマチンリモデリングにかかわる遺伝子のノックダウンを細胞株で行い、遺伝子発現やプロモーターのヒストン修飾の変化を定量化する。また凍結保存された臨床検体で正常腎組織と癌組織から細胞を採取し、クロマチン免疫沈降によるHIF2αプロモーターのヒストン修飾解析をおこなう。癌と正常を比較することで癌特異的なヒストン修飾を同定し、病期や予後等の臨床データーと比較することで、バイオマーカーとしての有用性を検討する。有用性を示せない場合は、当施設で同一症例内で原発巣、転移巣摘出標本が保存されている数例の検体で、原発巣、転移巣摘出組織間での比較をおこない、原発巣から転移・進行に至る過程でのそれらの修飾変化を解析したい。
組織マイクロアレイを作成することで、免疫染色等による臨床検体の解析にかかる費用が一部節約されたため、検体数を増やした追加解析をおこなう予定である。
すべて 2019
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件)
Int J Clin Oncol
巻: 24 ページ: 1069-1074
10.1007/s10147-019-01459-1