研究課題/領域番号 |
18K09176
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
丸山 哲史 名古屋市立大学, 医薬学総合研究院(医学), 高度医療教育研究センター教授 (50305546)
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研究分担者 |
安井 孝周 名古屋市立大学, 医薬学総合研究院(医学), 教授 (40326153)
林 祐太郎 名古屋市立大学, 医薬学総合研究院(医学), 教授 (40238134)
水野 健太郎 名古屋市立大学, 医薬学総合研究院(医学), 准教授 (70448710)
中根 明宏 名古屋市立大学, 医薬学総合研究院(医学), 准教授 (70464568)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | シェアーストレス / ホローファイバー / 間葉系細胞 / 伸展刺激 / 上皮間葉誘導 / 尿路再建 / 尿路上皮細胞 / 平滑筋細胞 |
研究実績の概要 |
尿路再建術に際しては、摘除した尿管組織の補填材料として生体適合性のある機能的な組織が必要とされる。しかし、培養細胞を材料とした組織では力学的強度が不十分であり、また臨床応用可能な必要量が確保できないなどの課題があった。われわれは、ホローファイバー(中空糸)システムを用いて、幹細胞から再生した尿路上皮細胞と平滑筋細胞とを流体下で共培養することでシェアーストレスや伸展などの力学的ストレスを負荷し、力学的な強度を持つ尿路組織を作製した。 ホローファイバーシステムは、中空糸周囲空間(extra capillary space/ ECS)に大大量の細胞を培養することを目的に開発された。このシステムを用いて尿路上皮に対して、経時的に細胞数の算定および位相差顕微鏡での形態観察を行った。その増殖能、活性および形態学的特徴を評価し、最適な培養期間および培養の条件等を検討した。中空糸は高い物質交換特性を持ち、細胞に養分と酸素を供給し、老廃物(アンモニア、乳酸)を除去する。ポンプを用いて培養液を環流させることで、自動的に栄養を供給し老廃物を除去できる。その増殖能、活性および形態学的特徴を評価し、最適な培養期間および培養の条件等を検討した。 流れ刺激により上皮細胞は上皮間葉誘導を来たし平滑筋およびKit陽性間質細胞へと再分化する可能性がある。間葉系細胞のマーカーであるビメンチンの分布を検討した。さらに、KitリガンドであるStem Cell Factor (SCF)を加えることでKit陽性間質細胞をこのシステム内に誘導し、平滑筋細胞層が組織全体としても統一性ある運動(いわゆる蠕動運動)をすることを電気生理学的および薬理学的に確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
COVID-19 パンデミックによる社会情勢の未曾有の変化により、愛知県では令和2年4月10日~5月26日、および令和2年8月6日~8月24日の2回にわたり非常事態宣言が発出された。この間、筆頭研究者も濃厚接触者となり研究従事が不可能な時期があった。 さらに同僚が濃厚接触者となり勤務不可能となり、筆頭研究者の通常業務が激増した。筆頭研究者が主として勤務する名古屋市立東部医療センターは、愛知県指定の第二種感染症指定医療機関として感染症病床を有し、また発熱患者等が診療・検査を受けられる体制としての「診療・検査機関」に指定されている。更に、かかりつけ医を持たず、受診先に迷う方々に対しては、保健所に設置された「受診・相談センター」から指定をうけた、「電話相談体制を整備した医療機関」に選定された。これらに基づく受け入れ態勢準備、来院者に対する診療・特殊検査に従事した。一方、発熱者が一般の診療機関で敬遠される傾向にあり、「救命救急センター」「地域医療支援病院」としての責務上、業務量の増加が著しかった。 研究環境全般の劣化も大きな要因となった。いわゆる3密状態での研究活動が不可能になった。研究スペースの確保、換気状態の改善などに時間を要した。物流の全般的な停滞により、研究資材の搬入が計画通りに行かなかった。国内外の研究会および学会の延期などにより、公的な発表機会が失われ研究結果についての十分な検討が困難であった。
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今後の研究の推進方策 |
電気刺激とサイトカイン刺激により細胞間接着を強化するとともに間質細胞を分化誘導した。このようにして作製された管腔組織はKit陽性間質細胞がこのシステム内に誘導され、平滑筋組織に自動能がもたらされることが示唆された。ホローファイバーシステムに律動的な電気刺激を加えることで平滑筋組織に方向性をもった空間的配置が確立され、電気的結合も強化された。以上により、作成した平滑筋細胞層が組織全体としての方向性と強弱をもった統一性のあるいわゆる蠕動運動を誘起し、効率的な尿移送が可能となった。尿管などさまざま部位での尿路再建手術に臨床応用が可能な生理的な手術材料となることが示唆された。 実際の臨床応用においては組織レベルの物理的サイズと強度が必要で、プロセスの更なる効率化が課題である。尿路上皮や平滑筋の幹細胞が利用できれば、未分化状態を維持したままの分裂増殖により、大きく欠損した尿路を補うのに十分な量の新しい組織を得ることが可能である。出発点としてES細胞などを用いればより非侵襲的な方法となる。ES細胞由来の細胞群を基に尿路上皮やその周囲の組織を得ることも検討中である。 上皮間葉(EMT)誘導:一部の上皮細胞はEMTを来たし平滑筋へと再分化した。その過程を免疫組織学的に追跡する。この際には、上皮系細胞のマーカーであるサイトケラチンと間葉系細胞のマーカーであるビメンチンの分布を検討する。アクチンミクロフィラメントやギャップジャンクションを確認する。 重層的な研究体制を構成することで組織の安定化を図る。ホローファイバーシステム作製、マトリックス作製、動物実験(ラット)・細胞培養・遺伝子発現解析などそれぞれの技術に習熟した研究者の協力のもとに実験を遂行する。効率的に研究を進めるため研究方法ごとに研究者を分担する。
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次年度使用額が生じた理由 |
ホローファイバー(中空糸)システムを用いた尿路上皮細胞の培養を行い、さらに電気刺激による細胞接着強度の増加を目指す計画であった。 計画自体は順調な滑り出しであったがCOVID-19による通常の医療業務が大幅に変更となり、予定していた研究を進めることができなかった。このため次年度使用が生じた。次にサイトカイン刺激やES細胞への遺伝子導入につなげていきたい。
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