本研究では、現時点で根治的な治療法が存在しない進行膀胱癌に対し、一般に固形癌に対しては抗腫瘍効果が限定的であるヒストン脱アセチル化酵素阻害薬(HDACi)の作用を他の薬剤を用いて増強する手法での新規治療開発を目指した。本年度は、HDACiとプロテアソーム阻害薬の性質を併せ持つRTS-V5を使用し、その作用をHIVプロテアーゼ阻害薬であるritonavirを用いて増強する研究を実施した。RTS-V5とritonavirの併用はアポトーシスを誘導し、相乗的に膀胱癌増殖を抑制した。この併用による抗腫瘍効果はヌードマウスを用いた皮下腫瘍モデルでも証明された。RitonavirはRTS-V5によるヒストンのアセチル化およびα-tubulinのアセチル化を促進しており、ritonavirによるRTS-V5のブースト効果が示された。さらに、併用はユビキチン化蛋白を蓄積し、小胞体ストレスを誘導するとともに、AMPKの発現を増加し、mTOR経路を抑制した。併用はautophagyも相乗的に惹起したが、これはユビキチン化蛋白蓄積およびmTOR経路の抑制と一致する結果であった。なお、併用の中心的なメカニズムであるヒストンアセチル化と小胞体ストレス誘導はヌードマウス皮下腫瘍モデルにおいても確認された。膀胱癌細胞自体が薬物代謝酵素であるCYP3A4を発現していること、また、CYP3A4阻害薬であるcobicistatとRTS-V5の併用が、ritonavirとの併用と同様の効果および作用メカニズムを示したことから、本研究でみられたritonavirのブースト効果ではCYP3A4抑制が重要な役割を果たしているものと推測された。本研究成果は国際科学雑誌に掲載された。
|