研究課題/領域番号 |
18K09225
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研究機関 | 浜松医科大学 |
研究代表者 |
田村 直顕 浜松医科大学, 医学部, 助教 (90402370)
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研究分担者 |
金山 尚裕 浜松医科大学, 医学部, 副学長 (70204550)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 羊水塞栓症 / 血液凝固線溶系 |
研究実績の概要 |
2018年度は、羊水と母体血液の直接的な接触に注目し、血小板と血液凝固線溶系全体を評価できるRotational thromboelastometry (ROTEM)を用いて詳細な検討を行った。単胎妊婦計21症例のクエン酸全血サンプルと、19症例から採取した羊水を用いて、全血に対して羊水を添加して、下記測定系を評価した。 ROTEMの複数のassayのうち、自然凝固させるassay (NATEM)では、凝固時間が短縮、血餅硬度は増大したが、線溶亢進は認められなかった。血小板機能を阻害することでフィブリノゲンによる血餅形成を観察するassay (FIBTEM)との比較では、NATEMの血餅硬度の増大は血小板機能亢進によるものと考えられた。 組織因子経路を活性化させるassay (EXTEM)では、凝固時間は短縮したが、血餅硬度は添加した羊水量依存的に減少した。このassayでの線溶指標の結果(LI30、LI60低下)、それ自体は血餅が溶解されやすいことを示唆するものであったが、トラネキサム酸添加によって線溶阻害することで線溶亢進を検出するassay (APTEM)との比較では、同線溶指標は変わらず低下しており、プラスミンによる線溶亢進は存在しないことが判明した。 EXTEMとFIBTEMの血餅硬度の指標を比較(PLTEM)すると、血小板の血餅への影響を検討でき、このPLTEMの血餅硬度の指標(A10、MCF)によると、羊水添加によって用量依存的に血餅硬度が減少しており、羊水が線溶亢進を惹起するのではなく、血小板に作用した結果、脆弱な血餅が形成されていることを示唆する結果であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
羊水と母体血液の反応として以下の結果が判明した。すなわち、羊水は血液凝固反応を促進し、血小板凝集を活性化したが、線溶亢進を誘導しなかった。羊水によってさらに活性化された組織因子経路のもとでは血小板に影響し、脆弱な血餅がつくられた。 これらの結果は、羊水塞栓症による肺動脈塞栓のメカニズムとして、羊水・胎児成分による機械的閉塞だけでなく、分娩後早期の組織因子経路活性化に伴う播種性血管内凝固症候群および血栓塞栓が関与することを示唆しており、羊水塞栓症における心肺虚脱の病態解明につながるものと期待される。
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今後の研究の推進方策 |
2018年度はROTEMを用いた実験により、主に羊水が血液凝固系に及ぼす変化について検討した。その結果、血液凝固反応を促進し血小板凝集を活性化するが、線溶亢進を誘導せず、羊水によって活性化された組織因子経路のもとでは血小板に影響し脆弱な血餅がつくられることが明らかとなった。羊水塞栓症においては、アナフィラクトイド反応が関与し、補体活性化と凝固線溶の活性化を来すものと考えられている。そこで2019年度は、羊水塞栓症における血液凝固系と補体系のクロストークの可能性について研究を進める。この点、第XII因子によるC1の活性化やトロンビンによるC5の活性化、C5aによる血管内皮細胞及び好中球での組織因子の発現誘導など解明が進んでいるが、羊水・胎児成分の直接的な関与については不明である。そこで、羊水と血液の反応について、補体系、各種サイトカイン発現を解析し、血液凝固系に変化を及ぼすメカニズムを明らかにすることを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
2018年度は、旅費および研究成果発表に関わる諸費用が予定より少なく、次年度使用額が発生した。2019年度は、研究推進のための試薬および物品の購入に加え、国際的に研究成果を発表する予定があり、次年度使用額は2019年度に使用する予定である。
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