研究課題
従来根治療法のなかった疾患に対し、間葉系幹細胞移植治療の有効性が示されるようになってきた。しかし、幹細胞移植療法の最大の問題点は、移植細胞あるいはその細胞が産生する新生蛋白に対する免疫反応により、免疫学的拒絶反応が起こり、治療効果が時間経過とともに消失することである。本研究の目的は、出生後の細胞・臓器移植治療を効果的に行うため、免疫システム確立前の胎児に、母親の間葉系幹細胞を暴露させることで、それらに対する免疫寛容を効率的に誘導する方法を開発することである。初年度は、①「妊娠による母体血中間葉系幹細胞数の生理的変化と妊娠中間葉系幹細胞動員因子HMGB1投与による母体および胎児への影響を調べる。」ことを主に行う計画としていた。①を研究するに際して、まずマウス胎生期末梢血に循環するMSCの実態を調査した。胎生期から出生後までの末梢血MSCの量的・質的な経時的変化を明らかにした。胎生18.5日では末梢血中の有核細胞におけるMSCは0.28%であったのに比べて、3週令では0.018%であった。さらに胎生18.5日目から5週令までの解析も行ったところ、生後1週令から2週令にかけて速やかに減少することが明らかになった(p<0.01)。さらに、胎生18.5日の胎仔末梢血MSCのsingle cell レベルのトランスクリプトーム解析を行ったところ、胎仔末梢血MSCには3つの機能的亜集団が存在することが分かった。本研究において、胎仔末梢血には成体より多くのMSCが存在し、さらに胎仔末梢血MSCには遺伝子発現の異なる亜集団が存在することがわかった。この結果を論文として投稿し、受理された。次いで、①について検討した。妊娠中に特に末梢血中MSCの数の変化は認めなかった。さらに間葉系幹細胞動員因子HMGB1投与によって明らかな末梢血中MSCの増加は認めなかった。
2: おおむね順調に進展している
①胎児期には成人期よりも末梢血中MSCの数が多いことが示された。②胎児期と成人期での末梢血中MSCの減少は、出生後直後(1~2週間の間)に起こることが示された。③妊娠中に末梢血中MSCの数は、大きく変化しないことが示された。④妊娠マウスに間葉系幹細胞動員因子HMGB1を静脈内投与したが、胎仔マウスへの明らかな影響は認めなかった。⑤胎児期の末梢血中MSCは、3つのサブタイプに分かれることが示された。
平成30年度の研究進捗状況を踏まえ、②「妊娠中間葉系幹細胞動員因子HMGB1投与により、母体の非遺伝母由来抗原NIMAに対する免疫寛容の誘導効率が上がるかどうかを調べる。」ことを進めていく。
試薬の納品が間に合わず、翌年度に持ち越した。
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