従来根治療法のなかった疾患に対し、間葉系幹細胞移植治療の有効性が示されるようになってきた。しかし、幹細胞移植療法の最大の問題点は、移植細胞あるいはその細胞が産生する新生蛋白に対する免疫反応により、免疫学的拒絶反応が起こり、治療効果が時間経過とともに消失することである。本研究の目的は、出生後の細胞・臓器移植治療を効果的に行うため、免疫システム確立前の胎児に、母親の間葉系幹細胞を暴露させることで、それらに対する免疫寛容を効率的に誘導する方法を開発することである。 そこで、我々は、母体胎児間マイクロキメリズムという自然に存在している現象に着目し、胎児期に母体から胎児へ移行する間葉系幹細胞によって生じる非遺伝母由来抗原NIMAに対する免疫寛容の誘導効率についての研究を進めた。具体的には間葉系幹細胞系列でのみ発現する抗原のNIMAマウスモデルを作成し、生理的条件下で起こりうるNIMAに対する免疫寛容の誘導効率について検討したあとで、骨髄由来間葉系幹細胞動員因子HMGB1を妊娠初期より母体血中に投与することで、NIMAに対する免疫寛容の誘導効率を増加させることが可能かどうかを検討した。 NIMAモデルにおいて、生理的な条件下では、NIMAに対する免疫寛容の誘導率は、5.9%であることが分かった。妊娠マウスに間葉系幹細胞動員因子HMGB1を連続静脈内投与することにより、免疫寛容誘導率は26%まで増加することができた。しかしながら、その上昇率は約4倍であり、すべてのマウスに母体由来NIMAに対する免疫寛容を誘導するには至らなかった。最終年度は、HMGB1を連続静脈内投与によるマイクロキメリズムの量的変化について検討したが、胎仔マウス内での有意な母由来間葉系幹細胞の増加は認めなかった。今後、免疫寛容誘導率を上昇させるための機序の解明とさらなる効率上昇のための工夫が必要であると考えた。
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