研究課題
Low grade serous ovarian carcinoinoma(LGSOC)/serous borderline tumor(SBT)では、KRAS/BRAFの遺伝子変異が60%と高頻度である事が報告されている。いずれも海外からの報告であり、本邦での検討はない。我々は本邦におけるLGSOC/SBTの遺伝子変異を明らかとすることを目的とした。対象は当院倫理委員会で承認され、患者の同意が得られた2010年~2016年までのLGSOC/SBT 17例。パラフィン包埋切片からマイクロダイセクション法にてDNAを抽出した。KRAS、BRAF、PIK3CA、EBBRE2の遺伝子変異についてサンガーシークエンス法にて解析した。また、p-ERK、pAKTの発現レベルについて免疫染色法で検討した。LGSOC 7例中3例(42.8%)、SBT10例中2例(20.0%)にPIK3CAのエクソン9にoncogenic mutationを認めた。KRAS、BRAFはすべての症例でwild typeであった。またLGSOC に1例(14.2%)にERBB2の変異を認めた。PIK3CAにoncogenic mutationが存在する症例はいずれも、pAKTの発現レベルが亢進していた。本邦でのLGSOC/SBTはKRAS、BRAFの変異頻度は欧米に比べて低い事が示唆された。また、本邦でのLGSOC/SBT ではPIK3CAの変異頻度が欧米に比べて高い事が示唆された。本邦のLGSOCではPIK3CA/AKT経路をターゲットとした分子標的治療が有効である可能性がある。現在、解析症例を追加中であり、研究終了年度には35例を越える予定である。既に良性の漿液性嚢胞腺腫上皮細胞の安定培養系を確立し、レンチウイルス発現系にてCyclinD1/CDK4/TERTを過剰発現させ細胞不死化(HOVsCyst1細胞)に成功している。この不死化漿液性嚢胞腺腫上皮細胞に変異型PIK3CA, KRAS, HER2を導入予定である。
2: おおむね順調に進展している
本邦でのLGSOC/SBTはKRAS、BRAFの変異頻度は欧米に比べて低い事が示唆された。また、本邦でのLGSOC/SBT ではPIK3CAの変異頻度が欧米に比べて高い事が示唆された。本邦のLGSOCではPIK3CA/AKT経路をターゲットとした分子標的治療が有効である可能性がある。本邦のLGSCの特徴が明らかにされつつある。
良性の漿液性嚢胞腺腫上皮細胞の安定培養系を確立し、レンチウイルス発現系にてCyclinD1/CDK4/TERTを過剰発現させ細胞不死化(HOVsCyst1細胞)に成功している。この不死化漿液性嚢胞腺腫上皮細胞に下記遺伝子を導入予定である。Driver gene 導入による形質確認:近年の発癌研究によりヒト癌化に必要なDriver geneは3個程度と想定されている予備実験では本邦LGSCには高頻度にPIK3CA変異が認められ、既にSBTの段階でPIK3CA遺伝子変異が20%に認められた。したがってadenomaからSBTに進展する早期の段階で起こる異常と考えられる。以上の理由より、本邦LGSCのDriver geneとして、PIK3CAを想定し、不死化細胞には、まず変異型PIK3CAを導入する。また、我々の予備実験では本邦のLGSCの約10%にはERBB2 (HER2/neu)の遺伝子変異が認められた。そのため、セカンドヒットのDriver geneとしてはERBB2を導入予定である。サードヒットとしてはWhole Genome Sequenceで得られた、プロモーター領域の変異を想定している。これらもレンチウイルス系での導入を予定している。一方で欧米型のin vitro 発癌モデルとしてKRASあるいはBRAF遺伝子変異をファーストヒットとしてのDriver geneとするモデルも別系統で構築する。その後の形質転換の確認には、足場非依存性増殖能及びヌードマウスでの腫瘍形成能の検討を行う。この発癌モデルの最大の利点は癌化に必異様なDriver geneの数と種類を逆方向から明らかにできる点にある
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