研究課題/領域番号 |
18K09236
|
研究機関 | 杏林大学 |
研究代表者 |
小林 陽一 杏林大学, 医学部, 教授 (90205493)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 子宮内膜症 / チョコレート嚢腫 / 薬剤抵抗性 / azurocidin / プロゲステロン受容体 |
研究実績の概要 |
卵巣内膜症性嚢胞由来不死化細胞株Emosisにおいて、我々がプロテオミクス解析によりスクリーニングしたタンパクの1つであるazurocidin(AZU)の影響を検討した結果、以下の知見が得られた。 1)AZU投与により、EmosisにおけるIL-6 mRNAの発現は、内膜症治療薬であるdienogest (DNG) のIL-6抑制作用がキャンセルされた. 2)AZUのDNG抵抗性の作用機序を検討した.DNGは内膜症細胞のPgRを介して作用を発揮するため、Emosisにおけるエストロゲン受容体 (ER)およびプロゲステロン受容体 (PgR)への影響を検討した。その結果、AZU投与48時間後においてEmosisにおけるPgRの発現の低下およびER発現の増加を認めた.更に、DNGにはPgRのサブタイプであり子宮内膜増殖作用のあるPR-Bの発現を低下させる作用があると考えられているが,AZUはPgR-Bの発現を増強する作用を示した.このことからAZUはPgR-Bの発現を増強させることによりDNGの作用を減弱させる可能性が示唆された. 3)臨床検体での検討では、DNGにより内膜症性嚢胞の縮小が認められなかった症例では、DNGの治療効果を認めた、もしくは治療効果の不明な症例と比較して、尿中、血清中ともにAZUの濃度は有意に高値であった(尿中:43.5±41.4 vs 19.4±27.4, 血清中:1469.8±1206.6 vs 936.4±978.8 pg/ml). 以上の結果から、AZUのDNG抵抗性の機序として、AZUによるERおよびPgR-Bの発現増加に夜うものであることが示唆された.また血中および尿中のAZU濃度はDNGの治療抵抗性の新たなバイオマーカーになりうることが示唆された.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
AZUがDNGの効果を減弱し治療抵抗性をきたす原因のタンパクの1つであることが証明された。またAZUによるEmosisにおけるDNG抵抗性のメカニズムの一部が解明でき、実験計画としては概ね順調に進展していると思われる。
|
今後の研究の推進方策 |
内膜症由来細胞Emosisにおいて、AZUは内膜症治療薬であるDNGの作用を抑制することが判明した。内膜症性嚢胞は癌化することが知られており、特に日本人においては内膜症由来の卵巣癌患者が多いことが知られている.今後はAZUの臨床応用を模索するとともに、内膜症由来卵巣癌細胞株におけるAZUの作用を検討し、Emosisの反応性との違いから、内膜症性嚢胞の癌化に関わるメカニズムの解析につなげていきたいと考えている.
|
次年度使用額が生じた理由 |
令和元年度の合計は858,827円であり令和2年度へ41,690円の繰越となったが、未だ令和2年1月に行われた学会旅費の精算が済んでいないため、全体としては概ね予算通りの計画であると考える。。実験計画も概ね順調に進んでおり、ほぼ予算通りに進捗する見込みである。
|