研究課題
細胞の転写因子TEADは、特定のDNA配列に結合するが転写活性はなく、種々の転写共役因子と複合体を形成して転写を調節する。TEADがHPVの遺伝子発現に関わることが報告されているが、必要な転写共役因子や調節機構の詳細は不明である。本研究の目的は、HPVの遺伝子発現に関わる転写共役因子を特定し、TEADを介したHPV遺伝子発現調節機構を明らかにすることである。また、それらを標的として、HPVの遺伝子発現を阻害する薬剤を開発する。本年度は、HPVの遺伝子発現に必要な転写共役因子を特定し、その機能を調べた。HPV陽性表皮角化細胞およびHPV陽性子宮頸がん細胞で、既知のTEAD共役因子の一つであるVGLL1を、siRNAを用いてノックダウンすると、HPVの遺伝子発現が低下することがRT-qPCRとウェスタンブロットにより確かめられた。YAP、TAZ等、他のTEAD共役因子をノックダウンしても、HPV遺伝子の発現低下は認められなかった。レポーターアッセイで、VGLL1をノックダウンするとHPV初期プロモーター活性が低下した。クロマチン免疫沈降により、細胞内で、VGLL1がHPVゲノムの特に遺伝子発現調節領域(LCR)に結合していることが確かめられた。in vitroで、VGLL1は、TEAD結合能に依存してLCRに結合した。これらのことから、VGLL1は、表皮角化細胞および子宮頸がん細胞におけるHPVの遺伝子発現に重要と考えられる。また、HPV陽性子宮頸がん細胞でVGLL1をノックダウンすると、アポトーシスが誘導され、増殖が抑制されたが、HPV陰性の初代表皮角化細胞でVGLL1をノックダウンしてもアポトーシスは誘導されなかったことから、VGLL1は治療標的として期待できる。
2: おおむね順調に進展している
転写共役因子VGLL1が、HPVの遺伝子発現およびHPV陽性子宮頸がん細胞の増殖に必要なことを確認できたことから、おおむね順調に進展している。
今後は、転写共役因子VGLL1と転写因子TEADによる協同的なHPV遺伝子発現調節機構を明らかにする。TEADタンパク質ファミリーには4つの転写因子(TEAD1/2/3/4)が知られていることから、HPVの遺伝子発現に関わるTEADを、siRNA等を用いて特定する。また、HPVゲノムの遺伝子発現調節領域上のTEAD結合部位を調べ、変異を導入することにより遺伝子発現への影響を調べる。HPVの遺伝子発現は、宿主である表皮角化細胞の分化に依存している。表皮分化におけるVGLL1とTEADの発現変動を調べ、VGLL1/TEAD複合体によるHPV遺伝子発現調節機構を明らかにする。
年度末納品等にかかる支払いが平成31年4月1日以降となったため。当該支出分については次年度の実支出額に計上予定であるが、平成30年度分についてはほぼ使用済みである。
すべて 2019 2018
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件)
Viruses
巻: 11 ページ: E350
10.3390/v11040350
Hum Mol Genet
巻: 28 ページ: 341-348
10.1093/hmg/ddy390