研究課題
ヒトパピローマウイルス(HPV)はヒトの上皮細胞に感染し、子宮頸がん等の原因となる。HPVの初期遺伝子は、ウイルスのがんタンパク質であるE6、E7などをコードすることから、その発現機構を解明することは、HPV発がんの過程を理解するために重要である。細胞の転写因子TEADは、特定のDNA配列に結合するが転写活性はなく、種々の共役因子と複合体を形成して転写を調節する。TEADがHPVの遺伝子発現に関わることが報告されているが、共役因子等の詳細は不明である。本研究の目的は、HPVの初期遺伝子の転写に必要な共役因子を特定し、TEADを介したHPVの遺伝子発現機構を明らかにすることである。また、それらを標的として、HPVの遺伝子発現を阻害する薬剤を開発する。昨年度までに、TEADの共役因子の一つであるVGLL1がHPVの初期遺伝子の発現に必要なことを明らかにした。本年度は、TEADの機能を詳細に調べた。4つのTEADタンパク質ファミリー(TEAD1/2/3/4)のうち、TEAD1をノックダウンするとHPV初期遺伝子の発現が低下した。TEAD1はHPVゲノムの転写調節領域(LCR)にある11か所のTEAD認識配列にin vitroで結合した。このうち8か所に変異を導入すると、ルシフェラーゼレポーターアッセイで転写活性が低下した。クロマチン免疫沈降により、細胞内で、TEAD1とVGLL1がHPVのLCRに結合することが確かめられた。TEADに結合できないVGLL1変異体はLCRに結合しなかった。これらの結果から、VGLL1がTEAD1を介してLCRの複数の部位に結合し、初期遺伝子の転写を活性化することが示唆された。TEAD1が広範な細胞種で発現しているのに対し、VGLL1は主に上皮系の細胞で発現していることが報告されていることから、VGLL1はHPVの上皮特異的な遺伝子発現に関わる宿主因子の1つと推測される。また、shRNAを用いてVGLL1をノックダウンすると子宮頸がん細胞の増殖が抑制されたことから、VGLL1は子宮頸がん治療の新たな標的分子となり得る。
2: おおむね順調に進展している
転写因子TEAD1とその共役因子VGLL1の複合体がHPVの初期遺伝子の転写に必要なことを明らかにし論文発表したことから、おおむね順調に進んでいる。
TEADの共役因子としてVGLL1のほかにYAP等があり、TEADとの結合において、VGLL1とYAPは競合することが報告されている。VGLL1がHPVの宿主である上皮系の細胞で主に発現しているのに対し、YAPはHPV感染細胞を含む種々の細胞で発現している。ノックダウン実験の結果では、HPVの遺伝子発現へのYAPの関与はVGLL1に比べ低かったことから、LCR上では、YAPではなくVGLL1がTEAD1と結合することによって上皮特異的な遺伝子発現が起こると考えられる。他の転写因子との複合体形成がVGLL1とTEAD1の結合を促進すると想定し、免疫沈降法等を用いてTEAD1/VGLL1複合体と結合するタンパク質を探索する。また、HPVの遺伝子発現は宿主である角化細胞の分化に依存しており、分化した細胞ではキャプシドタンパク質等をコードする後期遺伝子が発現する。TEAD1/VGLL1の後期遺伝子の転写における役割を調べる。
年度末納品等にかかる支払いが令和2年4月1日以降となったため。当該支出分については次年度の実支出額に計上予定であるが、令和1年度分についてはほぼ使用済みである。
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