研究課題
昨年度までに、転写共役因子VGLL1が転写因子TEAD1を介してHPVゲノムの転写調節領域(LCR)に結合し、初期遺伝子の転写を活性化することを明らかにした。VGLL1/TEAD1と複合体を形成する宿主因子をさらに探索する目的で、LCR DNA(野生型プローブ)とTEAD結合配列に変異を導入したLCR DNA(変異型プローブ)に結合する子宮頸がん細胞の核タンパク質をプロテオーム解析によって比較した。TEAD1、VGLL1を含む約40種類の宿主タンパク質の変異型プローブへの結合が1/4以下に減少した。これらの中から、最終年度は、炎症性サイトカインであるS100A9に注目し、解析を行った。クロマチン免疫沈降実験により、子宮頸がん細胞内でS100A9がLCRに結合することを確認した。抗S100A9抗体を用いた免疫沈降実験で、核抽出液中のTEAD1とVGLL1が共沈した。子宮頸がん細胞でS100A9をノックダウンすると初期遺伝子の発現が減少し、過剰発現させると増加した。研究期間全体を通じて得られた結果から、VGLL1とS100A9がTEAD1と複合体を形成してLCRに結合し、転写共役因子として働くと考えられる。TEAD1が広範な細胞種で発現しているのに対し、VGLL1とS100A9は主に上皮細胞で発現していることから、これらの転写共役因子がHPVの上皮細胞特異的な遺伝子発現に関わると推測される。shRNAを用いてVGLL1をノックダウンすると子宮頸がん細胞の増殖が抑制されたことから、VGLL1は子宮頸がん治療の標的分子となり得る。また、S100A9は、細菌やウイルス感染によって発現が誘導され、炎症反応を促進することから、炎症とウイルス発がんを直接結び付ける重要な宿主因子と思われる。本研究により、HPVの細胞指向性や発がん性に重要な働きをする宿主の転写共役因子が明らかとなった。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件)
Cancers (Basel)
巻: 13(18) ページ: 4613
10.3390/cancers13184613