研究課題
【目的】本研究では、1.卵巣癌においてPARP阻害剤の感受性に関わるゲノムプロファイルを調べる、2.相同組換修復異常を誘導する分子標的治療薬を同定する、3.相同組換修復異常を誘導する薬剤とPARP阻害剤の抗腫瘍効果を解明することを研究目的とした。【方法】ヒストンメチルトランスフェラーゼSMYD2の標的遺伝子の一つがPARP1であることに着目し、卵巣漿液性癌細胞株を用いて、SMYD2阻害剤とPARP阻害剤を併用し、抗腫瘍効果を確認した。これまでに収集した自施設の漿液性癌78例の全エクソンシークエンスのデータをもとに、変異シグネチャーや染色体コピー数異常を解析し、BRCA1/2変異以外に相同組換え修復異常を示すと考えられる候補症例を抽出した。【成績】SMYD2阻害剤は単独でも卵巣漿液性癌細胞に対し、抗腫瘍効果を示した。抗腫瘍効果の主たる要因として、細胞死を誘導することも明らかとなった。さらに、PARP阻害剤との併用により、相加的な抗腫瘍効果が生じることも見い出した。卵巣漿液性癌の臨床検体における全エクソンシークエンスによる変異シグネチャー解析の結果、BRCA1/2変異陽性例と類似の塩基置換パターンを示す症例が、むしろBRCA1/2変異陽性例よりも高頻度に存在することを見出した。さらに、BRCA1/2変異とは別のDNA修復経路に遺伝子変異を有するサブグループが存在することを見出した。特徴的な塩基置換パターンは、TCGA等の公的データベースによる解析でも再現性をもって検出されており、特定の遺伝子のコピー数増加と負の相関にあることが示された。【結論】卵巣漿液性癌において、PARPを標的とする新たな分子標的治療法の可能性が示された。また、PARP阻害剤の感受性、相同組換え修復不全という生物学的特性をゲノムプロファイルから詳細に推定できる可能性が示された。
2: おおむね順調に進展している
予定通りに研究を遂行できており、研究の成果を英語論文として報告した。変異シグネチャーについての解析データも、初回進行高異型度卵巣癌患者を対象としたオラパリブ維持療法に関する多施設共同第II相臨床試験(医師主導治験)におけるバイオマーカー評価の閾値設定に役立てている。国内外の学会発表の場でも研究成果を報告しており、本研究プロジェクトは順調に進展している状況である。
2018年度は、卵巣癌においてPARP阻害剤の感受性に関わるゲノムプロファイルを調べ、DNA修復経路に作用する新規分子標的治療薬であるSMYD2阻害剤の抗腫瘍効果を検討した。2019年度以降は、相同組換修復と関連するような分子標的治療法の探索をさらに進め、相同組換修復異常と関連する変異シグネチャーとの相関を調べ、バイオマーカーとしての有用性についても検討する予定である。さらに、相同組換修復欠損を示さない卵巣癌細胞において、相同組換修復異常を誘導するような分子標的治療薬の同定も検討する予定である。
前年度までの研究費をもとにしたデータ等を活用したため。2019年度以降の更なる機能解析や分子標的治療法の探索的な研究に使用する計画である。
すべて 2019 2018
すべて 雑誌論文 (10件) (うち国際共著 2件、 査読あり 10件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 1件、 招待講演 5件) 図書 (2件)
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