研究課題/領域番号 |
18K09259
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
最上 晴太 京都大学, 医学研究科, 助教 (40378766)
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研究分担者 |
近藤 英治 京都大学, 医学研究科, 准教授 (10544950)
万代 昌紀 京都大学, 医学研究科, 教授 (80283597)
千草 義継 京都大学, 医学研究科, 助教 (80779158)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 前期破水 / グルココルチコイド / 羊膜 / マクロファージ |
研究実績の概要 |
本年度は前期破水と羊水中のマクロファージを中心とした自然免疫機構とのかかわりにつき検討を行った。母体ストレスや自己免疫疾患などに対する妊娠中のステロイドの使用は前期破水や早産のリスクとなることが知られている。 妊娠中にプレドニゾロン(>6.5mg/日)を服用している妊婦では対照群に比べて羊膜の間葉細胞層が有意に薄かった。妊娠マウスにグルココルチコイド(GC)を投与すると、同様に羊膜の間葉細胞層の菲薄化を認めた。この卵膜ではコラーゲン含有量の低下とその分解酵素のマトリックスメタロプロテナーゼ (MMP)の発現亢進、さらにプロスタグランジンE2 (PGE2)とその律速酵素のCOX2の産生が増加していた。組織学的にはGC投与により羊膜へのマクロファージの遊走が亢進し、マクロファージよりIL-1βが放出されていた。ヒト羊膜間葉細胞にGCを投与すると、コラーゲン遺伝子の発現を抑制しCOX2発現を増加させ、一方IL-1βの投与はCOX2とMMPの発現を著明に増加させた。以上よりGCは羊膜間葉細胞へ直接作用しコラーゲン産生の抑制とPGE2の産生を増加させる。一方、GCは羊膜へM1型の炎症性マクロファージを遊走させ、放出されたIL-1βがMMPの増加によりコラーゲンを分解していることが示唆された。妊娠中のグルココルチコイド投与、あるいは母体への多大なストレスは羊膜を脆弱化し、前期破水や早産のリスクとなることが考えられる。 以上の結果はEndocrinology誌に掲載された。 Maternal glucocorticoids make the fetal membrane thinner: Involvement of amniotic macrophages. Kiyokawa H and Mogami H. Endocrinology. 160:925-937, 2019
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1)前期破水の羊膜の組織学的観察: まずヒト前期破水症例の卵膜を組織学的に観察した。破綻部の羊膜間質にはCD68陽性のマクロファージの集積を多数認めた。さらに破水部の羊膜上皮細胞にはKi67陽性細胞が存在し、羊膜上皮の細胞増殖が盛んなことが示された。さらに蛍光二重染色にてE-cadherin陽性の羊膜上皮細胞層にvimentin 陽性細胞が多数認められ、増殖している羊膜上皮で、上皮間葉転換(Epithelial-mesenchymal transition, EMT)が生じていることが示唆された。このように、ヒトではマクロファージが羊膜上皮細胞に何らかの働きかけを行い、上皮の増殖とEMTにより羊膜の創傷治癒が促進されている可能性が示唆された。 2)マクロファージと羊膜細胞の相互作用: 次にヒト腹腔内より単離したマクロファージとヒト羊膜上皮細胞とを用いて、マクロファージが羊膜上皮へ与える影響を検討した。マクロファージと羊膜上皮細胞とを共培養しscratch assayを行ったところ、共培養群では、上皮細胞単独群と比べ羊膜上皮細胞の遊走が有意に促進された。さらにマクロファージと共培養した羊膜の上皮細胞は、その創部の辺縁で形態が間葉細胞様に変化しており、ここでもEMTが生じている可能性が示唆された。 3)マウス前期破水モデルにおける破水の治癒機構: 我々が作成したマウス前期破水モデルにおいて、羊水中のマクロファージのlineageをフローサイトメトリーにより検討した。羊水中のマクロファージは、非破水群に比べて破水群で有意に増加しており、これらのマクロファージは、胎仔肝臓由来であった。破水部卵膜の遺伝子発現を定量PCR法で検討したところ、TGF-β2, 3の発現が破水群で有意に亢進していた。これらのTGF-βシグナルが羊膜に治癒機構に関与している可能性が示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
1)胎生期マクロファージ欠損マウスの解析による破水治癒機構の解析 胎生期にマクロファージを欠損したコンディショナルノックアウトマウスを作成して、卵膜の創傷治癒におけるマクロファージの機能について解析する。マクロファージ特異的に発現されるCx3Cr1遺伝子のプロモーター領域にCre-ERT2を結合したCx3Cr1CreERマウスを、マクロファージcolony stimulating factor-1 receptor (CSF1r)のfloxed mutantマウス、すなわちCsf1r flox/floxマウスと交配する。これにより出生したヘテロ(Cre/wild, flox/wild)同士を交配して妊娠マウスを作成し、その胎仔のジェノタイピングを行い、ホモ(Cre/Cre, flox/flox)を選択。ホモ同士を交配して妊娠マウスを作成する。作成した妊娠マウスに妊娠8日目よりタモキシフェンを投与し、マクロファージを欠損させた後、下記の破水実験に供する。妊娠15日目のマウスを吸入麻酔下に開腹し注射針を用いて卵膜を破綻させる(マウス前期破水モデル)。閉腹後、経時的に卵膜の破綻部位を計測してその治癒を観察する。また卵膜、子宮筋、子宮頸部の採取を行い成長因子やサイトカインなどの解析を行う。 2)羊膜治癒におけるメカニズムの解析 羊膜の創傷治癒過程における上皮細胞の上皮間葉転換(EMT)のメカニズムにつき検討を行う。具体的には、IL-1β, TNFなどの炎症性サイトカインなどが、羊膜においてEMTを促進させるかどうか検討する。一方、TGF-βはフィブロネクチンやコラーゲンなどの細胞外マトリックス蛋白と相互作用して、細胞の遊走などを促進する可能性がある。これをヒト羊膜細胞およびヒトマクロファージを用いて、TGF-βシグナルによる羊膜治癒の可能性につき検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)該当金額では必要試薬の購入が難しく、次年度予算と併せて必要試薬購入予定として繰越した。
(使用計画)次年度予算と併せて試薬代に充当する。
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