研究課題/領域番号 |
18K09259
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
最上 晴太 京都大学, 医学研究科, 助教 (40378766)
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研究分担者 |
近藤 英治 京都大学, 医学研究科, 准教授 (10544950)
万代 昌紀 京都大学, 医学研究科, 教授 (80283597)
千草 義継 京都大学, 医学研究科, 助教 (80779158)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 前期破水 / 治癒・再生 / 羊膜 / マクロファージ / 上皮間葉転換 |
研究実績の概要 |
妊娠中期の前期破水は早産の主要な要因である。本研究では羊膜の再生・治癒の可能性につき、マクロファージによる自然免疫の観点からそのメカニズムを探るため、胎生期にマクロファージを欠損するコンディショナルノックアウトマウスの作成を試みた。 CX3CR1陽性マクロファージは、皮膚の創傷治癒や、心筋梗塞の治癒に関わることがこれまで報告されており、創傷治癒型のマクロファージのマーカーと考えられる。一方、マクロファージの増殖因子であるcolony stimulating factor-1 (CSF1)の受容体Csf1rのKOマウスはマクロファージを欠損する。 我々はタモキシフェン誘導型Cre/loxPシステムを利用して、妊娠マウスにCx3cr1陽性マクロファージにおけるCsf1r遺伝子をタモキシフェン(TAM)投与により欠損させる系を作成した。 このCx3cr1CreER/+, Csf1rflox/flox胎児をもつ母体にTAMを投与すると、Vehicle投与に比べて卵膜(胎児由来)のCx3cr1陽性マクロファージは著明に減少した。また、Cx3cr1+/+, Csf1rflox/flox胎児(CreERを有さない)に比べて、Cx3cr1CreER/+, Csf1rflox/flox胎児をもつ母体にTAMを投与すると、やはりCx3cr1陽性マクロファージは著明に減少した。同様のTAMによるマクロファージ欠損の誘導は、胎児肺、肝臓でも認められた。以上より、胎生期マクロファージ欠損マウスを作成することに成功した。 この胎生期マクロファージ欠損マウスを妊娠17日目に麻酔・開腹下に破膜させ、24、48時間後に破膜部のサイズを測定したところ、破膜部の直径は、対照群に比べてマクロファージ欠損群で有意に大きく、治癒が悪かった。以上より胎児由来マクロファージは羊膜の再生・治癒を助けていることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
上述のように、タモキシフェン誘導型Cre/loxPシステムを用いて胎生期マクロファージ欠損マウスを作成し、羊膜の治癒にマクロファージが深く関わっていることを発見した。 さらに、絨毛膜下血腫などの妊娠中の子宮内出血は前期破水・早産のリスクとなるが、本年度は凝固因子トロンビンの子宮筋収縮メカニズムにつき以下の知見を得た。 トロンビンの受容体であるprotease-activated receptor-1 (PAR1)は妊娠子宮に発現していた。in vitroの実験では、トロンビン、そしてPAR1 activating peptideはヒト子宮平滑筋細胞の収縮を促進した。トロンビンはミオシン軽鎖をリン酸化し活性化させ、これはミオシン軽鎖キナーゼ(MLCK)およびRhoキナーゼ(ROCK)の両者により行われていた。さらにトロンビンはCOX2発現の増加とプロスタグランジンE2, F2α (PGF2α)の産生を増加させ、また炎症性サイトカインIL-1βの産生を増加させた。一方トロンビンは、子宮筋を弛緩させるプロゲステロン受容体遺伝子PR-B mRNAの発現を低下させ、プロゲステロンの反応性を低下させることが示唆された。最後にプロゲステロンはトロンビンによる子宮平滑筋収縮を抑制し、これはIL1B mRNAの発現抑制およびCOX2 mRNAの発現抑制を介していると考えられた。以上よりトロンビンによる子宮平滑筋収縮のメカニズムが明らかとなり、さらに子宮内出血による流早産や前期破水の予防に対するプロゲステロンの有用性が示唆された。 本研究の成果はPLOS ONE誌に2020年4月6日にacceptされた。“Mechanisms of thrombin-Induced myometrial contractions: Potential targets of progesterone”
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今後の研究の推進方策 |
<羊膜治癒における上皮間葉転換(EMT)とマクロファージとのかかわりについて> 胎生期マクロファージ欠損マウスの実験により、マクロファージが羊膜の治癒・再生を助けていることが明らかになった。一方、羊膜の治癒には上皮間葉転換(EMT)が深く関わっていることをこれまで示してきた。ヒトの前期破水症例の卵膜の破綻部を組織学的に検討すると、破綻部の羊膜間質には、CD68陽性のマクロファージの集積を多数認め、これらは非破膜部位には見られなかった。さらに、E-cadherin, vimentinの蛍光染色では、E-cadherin陽性の羊膜上皮細胞層にvimentin 陽性細胞が多数認められ、これは、増殖している羊膜上皮でEMTが生じていることが示唆された。さらにマウスの前期破水モデルでは、破水群の卵膜では対照群に比べてTGF-β遺伝子の発現が有意に増加していた。 以上より今後、1)ヒト前期破水の破膜部ではTGF-β経路は活性化されているのか?(smad3のリン酸化など)、2)TGF-βが羊膜上皮細胞にEMTを引き起こすのか?(in vitroでのスクラッチアッセイ)、3)ヒト羊膜上皮細胞とマクロファージとの共培養では、上皮細胞の遊走とEMTが促進されたが、ここにはTGF-β経路が関与しているのか?(阻害剤を用いた実験)、4)胎生期マクロファージ欠損マウスの破膜部ではTGF-βシグナルが現弱しているか、またEMTが生じていないのか? などを解析し、昨年度に引き続き、羊膜の創傷治癒過程における上皮細胞のEMTのメカニズムにつきマクロファージとの関わりを考えながら検討を行い、研究成果をまとめていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験用試薬を購入予定であったが、必要な試薬の代金に足りなかったため。 来年度予算と合わせて4月に購入する予定である。
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