研究課題
遺伝性乳癌卵巣癌症候群の原因遺伝子であるBRCA1あるいはBRCA2に病的バリアントを有する多様な癌でPARP阻害薬が有効である。BRCA1遺伝子のミスセンスバリアントは病的意義が不明なものが多数あるため、それらの機能的評価を行うことはPARP阻害薬の有効性を評価することに直結する。BRCA1遺伝子のミスセンスバリアントを効率的に作成するシステムを構築し、可能な限り多くのバリアントを細胞株に発現しPARP阻害薬への感受性を解析する計画である。現在までにBRCA1のバリアント作成システムは概ね運用可能となり、現在までの30種類のバリアントを作成した。現在は細胞株に導入して機能評価のデータを集積する段階に入っている。細胞株をいくつか試し、発現の状態などから卵巣癌細胞株のUWB1.289が最も扱いやすく、さらにATCCよりUWB1.289+BRCA1を追加で購入し、ポジティブコントロールとして条件設定を行った。プラスミド導入からPARP阻害薬投与までの時間、PARP阻害薬投与から細胞増殖抑制の評価までの時間などで検出感度、特異度に変化があるため、バリアントを試した時に注目すべき違いが検出できるように調整が必要である。また、これまでMLH1, MUTYHのバリアント解析をおこない、バリアントによってはタンパク安定性が大きく変化し、発現量が低下することがわかっている。BRCA1の機能低下がタンパク量の低下によるものか機能喪失によるものかを分類するために発現量を評価する必要がある。バリアントの数が当初の予定より少ないために、western blottingで評価を進めている。UWB1.289はp53バリアントを有する細胞株であるが、可能であればp53野生型の細胞株でも試すことを考えたい。本研究を行いつつ、遺伝性腫瘍に関連する図書の分担執筆、和文雑誌への投稿をするとともに、がん薬物療法とバイオマーカーに関する4報の英文論文の共著者となった。
3: やや遅れている
これまで、卵巣癌、乳癌の細胞株を購入し、野生型BRCA1あるいは1塩基置換を有するバリアントBRCA1遺伝子の発現実験を試みてきたが、結果が安定しない状況があるために発現の良い細胞株を選択して、実験を継続する方針とした。BRCA1欠損卵巣癌細胞株UWB1.289は、BRCA1を安定発現したUWB1.289+BRCA1も入手可能であり、ポジティブコントロールとしてこの細胞を購入した。研究はやや遅れ気味である。当研究室は病院業務を兼任する臨床系の教室であるがスタッフが3名しかおらず、診療や臨床実習などの教育を行うとかなり時間を取られるため、研究の時間が十分とれないのが問題である。東北医科薬科大学は医学部設立後、第一期の卒業生が出るまでは試行錯誤の上、毎年教育に関する新たな業務が追加される状況であった。今後はもう少し安定したエフォートの分配が可能と考えている。研究棟の必要物品や試薬をほぼ確保し、研究を推進する環境は概ね整備されたため、研究室の立ち上げは一定のレベルまで達成されたと考えている。
今後は細胞株をBRCA1欠損卵巣癌細胞株UWB1.289に絞り、まず作成した野生型BRCA1遺伝子発現エピゾーマルベクターを導入し、PARP阻害薬の効果が明確に評価できる条件を確定する。その際にポジティブコントロールとしてUWB1.289のBRCA1 定常発現株であるUWB1.289+BRCA1をポジティブコントロールとする。MTTアッセイ等により有意な増殖抑制を評価できる条件が確定したら、バリアントの評価を行いデータ収集していく。バリアントによるタンパク量の低下が想定されるので、BRCA1発現量をwestern blottingやELISA法により評価する。UWB1.289はp53遺伝子に体細胞性のバリアントを有するが可能であれば、p53遺伝子野生型の細胞株でも同一の実験を行い、PARP阻害薬への反応がp53依存性かどうかの評価を行いたい。
研究の他に診療、教育にエフォートを取られてしまうため、十分な進捗がなかったことが次年度使用額を生じた原因と考えられる。スタッフのリクルート活動を行っているが苦戦していることもエフォートが診療に取られてしまう原因である。当大学医学部は大学院設置を目指しており大学院が設置されるともう少し研究を志す若者が関心を示してくれるものと考えている。これまで出来るだけ節約しながらやってきたが、本年度は細胞培養やトランスフェクション、ELISAなど高価なキットが必要な実験もあり、恐らく使用が滞ることはないと考えられる。
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