研究実績の概要 |
出芽酵母を用いてBRCA1遺伝子のミスセンスバリアントを多数作成し、細胞株に発現してPARP阻害薬の効果を判定する計画であった。しかし、少数のバリアントでも、複数の細胞株を使用すると各バリアントにおけるPARP阻害薬への感受性の結果が一致しないなどの問題があり、スケールアップまで到達することができなかった。細胞株はBRCA1の機能を欠損していることが知られている卵巣癌細胞株のUWB1.289, 乳癌細胞株のMDA-MB-436を用い、BRCA1遺伝子のバリアント24種類を発現し、PARP阻害薬の反応を解析したところ、4種類は感受性3種類は耐性と判断されたが、それ以外の17種類は細胞株によってデータがばらつき判定が困難であった。ClinVarなどのデータベース解析ではBRCA1のミスセンスバリアントは4890種類あり、非病的が157種類、非病的疑いが39種類、解釈困難が329種類、病的疑いが33種類、病的が102種類、情報なしが1360種類、VUS(病的意義不明)が2879種類であった。病的バリアントのほとんどが、N末端のRINGドメインとC末端のBRCTドメインに集中していた。BRCTドメインはタンパク質の構造解析がなされているので、その立体構造に病的バリアントをプロットするとアルファヘリックスには機能欠失型のバリアントが多く存在する傾向があった。一方、非病的バリアントは遺伝子の2次構造上広く分布して、集中するドメインはなかった。また、病的バリアントが集中するRINGドメイン、BRCTドメインは、1塩基アミノ酸置換の種類が多い(あるコドンのアミノ酸が多数のアミノ酸に置き換わっている報告が多い)傾向があることが分かった。この4890種類の1塩基置換バリアントに関して、データベースや文献の検索を加え、ミスセンスバリアントの評価を行う簡便な方法に関して考察したい。
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