研究課題
本年度は、ゼブラフィッシュ胚の脳を発生初期の胎児脳モデルとし、抗うつ剤SSRIの標的であるセロトニントランスポーター(SERT, slc6a4a)のゼブラフィッシュ胚脳における発現解析と機能解析を行なった。slc6a4a mRNAは、受精後3日目の縫線核セロトニン神経細胞で発現することが報告されていたが、それ以前の発生初期におけるSLC6A4の発現・局在は不明であった。今回、SERTに対する抗体SLC6A4を用いて免疫染色を行ったところ、セロトニン神経が発生する前の受精後24時間(hpf)で、神経幹細胞である放射状グリア細胞でSERTは発現し、脳室に面する脳室帯の頂端側に局在していることが明らかになった。この結果は、SERTが脳の神経幹細胞で何らかの役割を果たすことを示唆した。これまでの解析から、発生初期の9 hpfからSERT阻害剤であるSSRIで処理すると、脳が僅かに縮小し、神経細胞の産生が抑制されることが示されていた。今回、神経幹細胞におけるSERTの機能を明らかにするため、SLC6A4Aの発現阻害を行ったところ、30 hpfで脳が僅かに縮小するという、SSRI処理と類似した表現型が観察された。一方、SLC6A4A発現阻害により、脳におけるリン酸化ヒストンH3陽性の分裂細胞は顕著に増加していた。次に、SLC6A4A発現阻害による神経回路形成への影響を、80 hpfで網膜視蓋投射に着目して調べたところ、視蓋神経細胞領域と網膜軸索投射領域は有意に拡大する一方で、神経細胞や神経回路の密度を反映する蛍光強度は有意に低下していることが明らかになった。妊娠時のSSRI服用によりリスクが高まる自閉症や自閉症モデルマウスにおいても、脳のサイズ拡大や神経回路異常を示すことが報告されており、発生初期のゼブラフィッシュ胚におけるSERT阻害が自閉症発症モデルとなり得る可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、ゼブラフィッシュモデル系を用いて解析を行い、セロトニントランスポーターの発現と機能について、ある程度の成果を上げることが出来た。従って、現在までの進捗状況は、おおむね順調に進展していると言える。
今後は、ゼブラフィッシュ胚脳におけるセロトニントランスポーターの役割についてさらに詳細な解析を行うと共に、ヒト胎児脳、胎盤におけるセロトニン系の発現解析も行う予定である。また、マウスを用いた実験についても準備を進める予定である。
予定よりも消耗品費を節約出来たため次年度使用額が生じたが、当該助成金は、次年度の研究計画で行う実験の消耗品費、旅費として使用する予定である。
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iScience
巻: 15 ページ: 95-108
10.1016/j.isci.2019.04.007