研究課題/領域番号 |
18K09271
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研究機関 | 埼玉医科大学 |
研究代表者 |
佐藤 智美 埼玉医科大学, 医学部, 非常勤講師 (50373311)
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研究分担者 |
梶原 健 埼玉医科大学, 医学部, 教授 (80286103)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | セロトニントランスポーター / 抗うつ薬 / SSRI / 脳発生 / ゼブラフィッシュ / 自閉症 |
研究実績の概要 |
本研究は、抗うつ薬SSRIの標的タンパク質セロトニントランスポーターの脳の発生過程における発現と局在を明らかにし、SSRIによる脳の初期発生への影響とその作用機序を明らかにすることを目的とする。脳の初期発生において、胎盤由来のセロトニンが胎児前脳に局在し、セロトニントランスポーター阻害剤であるSSRIの第1三半期(妊娠初期)における曝露は、自閉症の発症確率を上げることが報告されているが、セロトニン及びセロトニントランスポーターの脳の初期発生における具体的な作用機序は未だ明らかにされていない。 本年度は、昨年度に引き続き、ゼブラフィッシュ胚を胎児モデルとして、SSRI処理による胚発生、脳発生への影響を解析した。発生初期に一時的にSSRIで処理すると、形態的に顕著な異常は認められないが、体長が僅に短くなる発育不全となり、頭部縮小、網膜視蓋投射にも異常が観察された。この発育不全はSSRI洗浄後も維持されることが判明した。 さらに本年度は、ヒト成体と胎児組織におけるセロトニン系の発現解析をRT-qPCRにより行った。セロトニントランスポーターslc6a4は、ヒト成体脳で、他のセロトニン系タンパク質である、受容体htr1a・合成酵素tph1, tph2・代謝酵素maoa, maobと共に、弱いながらも発現していたが、ヒト胎盤で、特にslc4aとmaoaの高い発現が検出された。一方、ヒト胎児脳では、極めて弱いながらも、slc6a4の発現がtph1と共に検出されたが、htr1a, maoa, maobは、脳以外の肺、肝臓、腎臓、心臓での発現よりは弱いが、十分なレベルの発現が認められた。この結果から、これまでの報告と一致して、子宮内でのヒト胎児脳の発生過程において、胎盤によるセロトニン代謝が、胎児脳内のセロトニン濃度を大きく左右する可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は、コロナ禍により、予定通り研究活動を進めることが出来ず、実験や学会参加等に大きな支障が出たが、徐々に実験再開が可能となった。 本年度は昨年度に引き続き、ゼブラフィッシュ胚を胎児モデルとして、SSRI処理による胚発生・脳発生における作用解析を行い、発生初期の一時的なSSRI処理により、頭部縮小、網膜視蓋投射異常を伴う発育不全となることが明らかとなった。 また本年度は、ヒト胎児と成体組織由来cDNAを用いたRT-qPCRによるセロトニン系分子の発現解析を行い、セロトニントランスポーターslc6a4は、ヒト胎児脳で極めて弱いながらも発現している一方で、ヒト胎盤で特に強く発現していることが明らかとなった。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、ゼブラフィッシュ胚を用いて、さらにSSRI処理による胚発生・脳発生に対する作用機序の解析を行う。扁桃体相同部位が可視化されたトランスジェニック系統SAGFF120Aや網膜視蓋投射が可視化されたトランスジェニック系統brn3c:Gal4;UAS:mCherry;brn3a-hsp70:GFPなどを用いて、SSRI処理、セロトニン処理、セロトニン受容体阻害、セロトニン代謝酵素阻害、セロトニン受容体発現阻害、セロトニントランスポーター発現阻害等を行い、神経幹・前駆細胞の増殖・分化、神経細胞の産生、神経回路形成への作用を明らかにする。 また引き続き、ヒト・マウスの成体・胎児組織における発現解析を行うと共に、ヒト胎盤モデル系の確立を行い、絨毛外絨毛細胞や子宮内膜細胞の増殖、分化、移動に対する影響を解析することで、SSRIによる着床・胎盤形成への影響を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、コロナ禍で研究活動に大きな支障が出たため、実験器具・試薬などの消耗品費、学会参加・発表による旅費等の支出が予定よりも減少した。当該助成金は、次年度に繰り越し、当初の研究計画に基づいて、消耗品費、旅費等に使用する予定である。
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