研究課題/領域番号 |
18K09279
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
古田 伊都子 北海道大学, 医学研究院, 助手 (70238682)
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研究分担者 |
馬詰 武 北海道大学, 大学病院, 助教 (00807935)
水上 尚典 北海道大学, 医学研究院, 名誉教授 (40102256)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 妊娠高血圧腎症 / 尿中バイオマーカー |
研究実績の概要 |
本研究では,妊娠中期婦人から尿および血液を採取し,妊娠高血圧腎症(preeclampsia:PE)発症と非発症群における尿中バイオマーカー候補物質濃度を比較してPE発症予知の有効性を検討するとともに先行研究が進んでいる血中sFlt-1/PlGF比の有効性と比較する.本年度は初年度に引き続き,妊娠婦人から尿・血液検体の採取・保存を行い,妊娠転帰が判明した症例の一部を用いて,尿中バイオマーカー候補物質を測定し,PE発症例(N=15)とPE非発症例(N=63)の濃度を比較した.測定を行ったバイオマーカー候補物質はrenin-angiotensin系(RAS)活性時にpodocyteを障害するRAS因子であるangiotensinogen(AGT), angiotensin II (Ang II), angiotensin converting enzyme 2(ACE2),PE症例で血中濃度が変動するangiogenic factorであるPlGF, ,soluble endoglinである. PE患者の血清中にはpodocyteを障害する因子が存在することが報告されている.障害をうけたpodocyteが分泌するタンパク群はPE発症予知の尿中バイオマーカーとなる可能性を秘めている.本研究では不死化ヒトpodocyte株細胞の培養液にPE発症前の患者血清を添加し,培養液中に分泌されたタンパクをプロテオミクス解析してバイオマーカー候補タンパクを同定する.本年度は, PE発症妊婦血清添加培養液,無血清培養液で不死化ヒトpodocyte細胞を培養し培養上清を採取した.これに,培養上清ではないPE発症妊婦血清添加培養液を加えた3検体についてiTRAQ法で含まれるタンパクを網羅的に比較定量解析した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は尿中バイオマーカー候補物質の中から,有望な物質を絞り込む検討を行った. 妊娠転帰が判明した症例の尿検体を用いて,各バイオマーカー候補物質の濃度を測定し,PE発症例とPE非発症例で有意な差が認められる物質を探索した.検討を行った結果,RAS因子であるAGT,Ang II, ACE2はPE発症例とPE非発症例で差異が認められなかった.angiogenic factorであるsoluble endoglinは全ての検体で検出限界以下であったが,PlGFはPE非発症例(N=63)に比べPE発症例(N=15)では有意に低値(中央値 178.3 vs. 140.0pg/ml, p<0.05 )であり,Creatinine(Cr)で補正した濃度も有意に低値(中央値 384.0 vs. 210.1pg/mg Cr, p<0.001)であった. 培養上清中のタンパクをiTRAQ法で解析するためには,ウシ胎児血清を含まない培地で細胞を培養する必要があるが,無血清培地条件では細胞が産生するタンパク量が減少する.また,本研究では培地にPE発症妊婦血清を添加するが,添加量が多いと血清中に含まれる大量のタンパクによって細胞の産生する微量タンパクの変動が不鮮明になる.そのため最初に培地に添加する血清量及びiTRAQ解析に必要な十分量の不死化podocyte細胞分泌タンパクが得られる培養条件を検討した.この最適培養条件でPE発症妊婦血清5%添加培地及び無血清培地で細胞を培養し,培養上清を採取した.これらの培養上清とPE発症妊婦血清5%添加培養液の3検体を限外濾過で濃縮後,iTRAQ解析用の検体として受託検査会社に解析を依頼した.解析には数ヶ月を要するがすでに受託検査会社からは予備的段階の解析結果を受け取っている.
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今後の研究の推進方策 |
本研究を始めるにあたって,我々はPE発症例ではpodocyte 関連タンパクである尿中nephrin濃度が上昇していることを確認している.本年度に行ったPE発症例とPE非発症例におけるバイオマーカー候補物質の尿中濃度の比較によって,PE発症例ではPlGF濃度が低下していることが示された.2020年度は,妊娠転帰が確定した全ての尿検体についてnephrin,PlGFを測定し,ROC解析を行ってPE発症予知に対する有用性を検討する.また,尿検体と同時に採取した血清中のsFlit-1,PlGFを測定し,先行研究でPE発症予知の有用性が示されている血清sFlit-1/PlGF比と,発症予知の感度,特異度,AUCを比較する. 2019年度は1. PE発症妊婦血清添加培養液,2. 無血清培養液で培養した不死化ヒトpodocyte細胞の培養上清,3. PE発症妊婦血清添加培養液でpodocyte細胞を培養した培養上清の3検体におけるタンパクをiTRAQ解析した.探索したいのは,検体2と検体3の比較でPE発症妊婦血清の添加によって変動が見られた細胞由来タンパク(もともと細胞が産生している物質で増減が見られたタンパク,血清添加で細胞が新たに産生したタンパク)であるが,妊婦血清を含む検体3は含まれるタンパクの大部分が血清由来である.iTRAQ法では各検体等量のタンパクをラベルして分析機にかけるので,検体2(細胞由来成分のみ)と検体3(妊婦血清由来成分+細胞由来成分+妊婦血清添加刺激により生じる成分)のデータを直接比較することはできない.来年度はiTRAQ解析のデータから妊婦血清由来成分の影響を除いたデータへの変換方法を検討し, PE発症妊婦血清の添加によって変動が見られた細胞由来タンパクの探索を行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は主にiTRAQ解析に研究費を支出した.iTRAQ解析では検体に血清が含まれる場合,前処理が必要となる.血清中に含まれる大量の主要タンパクによって細胞が産生する微量タンパクの変動が不明瞭になるのを避けるため,特殊なカラムを通して主要タンパクの除去を行う処理であるが,これには検体ラベル後に行うLC/MS/MS装置による解析とは別途の料金が発生するため,次年度分研究費の前倒し支払い請求を行った. iTRAQ解析以外には尿中バイオマーカー候補物質の測定kit,細胞培養用品(培養液,supplement,細胞培養用消耗品等)等を購入した結果,若干の次年度使用金額が発生したものの,ほぼ予定通りの支出となった. 使用計画:iTRAQ解析では妊婦血清由来成分の影響を除いたデータへの変換を受託検査会社に依頼する.また,尿中Nephrin, 尿中PlGF,血中sFlit-1,血中PlGFを測定してPE発症予知の有用性を検討するためにそれぞれの測定キットを購入する予定である.
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