研究課題
子宮内膜症は、エストロゲン依存性に発生、増殖、そして退縮する。しかし、古典的なエストロゲン受容体(ER)αを介するシグナル伝達経路はむしろ少なく、ERβ、オーファン核内受容体であるestrogen-related receptor (ERR)α、ERRγ、細胞膜貫通型受容体であるG protein-coupled estrogen receptor 1 (GPER1)、そしてERRαの代表的共役因子であるPGC-1αを介する経路による、異常なエストロゲン代謝とシグナル伝達機構が主体であると推定される。本研究では、我々が提案している新たな分子機構と新規治療候補物質をさらに発展させて、(1)これらの分子制御機構を明らかにし、さらに(2)子宮内膜症の新たな分子標的治療の基礎的な戦略を提案する。このことによって、より効果的で副作用の少ない新たな治療薬の開発が期待できる。ダイゼイン・リッチ・アグリコン型イソフラボン(DRIAs)が子宮内膜症の増殖と炎症を抑制する機序については、子宮内膜症間質細胞を用いたin vitroの検討により、ERβ-NFκB経路を介することが明らかとなったことから、今年度は子宮内膜症モデルマウスにDRIAsを投与する検討を行った。PGC-1αの作用の解明と新規分子標的薬の提案に関して、PGC-1αを介する転写経路阻害剤であるHX531を新たに使用したところ、HX531がサイトカインなどの内膜症増悪因子の発現や細胞増殖作用を抑制することを見出した。今年度はPGC-1αのさらなる作用機序とHX531の抑制効果について検討した。
2: おおむね順調に進展している
研究材料として、子宮内膜症性卵巣嚢胞の手術時に採取する子宮内膜症組織、および対照として同じ患者および非子宮内膜症患者の正所性子宮内膜を用いた初代細胞培養系を使用している。DRIAsがERβ-NFκB経路を介して子宮内膜症の増殖と炎症を抑制する機序については、子宮内膜症間質細胞を用いたin vitroの検討により、ERβ-NFκB経路を介することが明らかとなったことから、今年度は子宮内膜症モデルマウスにDRIAsを投与する検討を行った。子宮内膜症マウスモデルはドナーマウスの細切した子宮を卵巣を摘出したレシピエントマウスに移植しエストロゲンを投与することで作製した。DRIAsを含んだ餌を与えると、病変の数、重量およびKi67陽性細胞数を抑制した。しかし、対照のIsoflavone-40を含んだ餌を与えた群では変化がなかった。体重、子宮重量には変化がなかった。以上のことから、DRIAsが子宮内膜症マウスモデルの嚢胞形成を抑制することが明らかとなった。PGC-1αの作用の解明と新規分子標的薬の提案に関して、PGC-1αを介する転写経路阻害剤であるHX531は、PGC-1α過剰発現により初代培養した子宮内膜症間質細胞の増殖を促進し、ノックダウンにより増殖抑制した。しかし、これらの変化は正常子宮内膜ではみられなかった。また、PGC-1αは炎症性サイトカインであるIL-6、IL-8をNFκBのリン酸化を介して刺激したが、HX531はその作用をキャンセルした。以上のことから、PGC-1αは子宮内膜症における進展において増殖や炎症においていずれに対しても重要な役割を果たしていることが明らかとなった。そしてPGC-1αの阻害が子宮内膜症治療に有効であることが示された。
子宮内膜症性卵巣嚢胞由来の初代培養系を用いて、PGC-1αがその増殖に及ぼす詳細な作用機序を解明し、PGC-1αに対する阻害剤が新たな分子標的治療薬となるよう分子生物学的基盤を明らかにする。
すべて 2019
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件)
Cell Oncol (Dordr)
巻: 42 ページ: 223-235
10.1007/s13402-019-00423-5
Sci Rep
巻: 9 ページ: 6697
10.1038/s41598-019-43261-z
Am J Reprod Immunol
巻: 82 ページ: e13147
10.1111/aji.13147
Hum Reprod
巻: 34 ページ: 1019-1029
10.1093/humrep/dez067