CD98の軽鎖はアミノ酸トランスポーターであり、必須アミノ酸を細胞内に取り込み、増殖や生存において極めて重要な役割を果たしている。癌細胞ではLAT1というトランスポーターが多く発現しており、治療の標的として様々な癌腫で注目されている。頭頸部扁平上皮癌では、まだ未知な事がほとんどである。3種類の頭頸部扁平上皮癌細胞株を用いて、in vitroでの実験を行った。フローサイトメーターを用いてLAT1陽性細胞とLAT1陰性細胞に分離し、無血清半流動培地内で培養を行ったところ、LAT1陽性細胞はLAT1陰性細胞よりも多数のSphereを形成する能力を持っていた。また、ボイデンチャンバーを用いて浸潤能の検討を行ったところ、LAT1陽性細胞は浸潤能が亢進している事がわかった。3種類の細胞株に合計60Gyの外照射を加え、LAT1の発現率をフローサイトメーターで検討したところ、照射後の細胞株はLAT1が過剰発現していることが明らかとなった。更に放射線照射後の細胞株で、LAT1陽性細胞と陰性細胞に分離し、無血清半流動培地内で培養したところ、陽性細胞のSphere形成能は維持されており、浸潤能の亢進も同様であった。放射線照射で生存できた細胞はLAT1陽性率が高く、放射線照射再発後の治療の難しさが想像される。LAT1阻害薬であるJPH203という薬剤は、極めて一部の癌で臨床試験が行われている。そこで、我々はJPH203を培養液に添加してLAT1の発現率、Sphere形成、浸潤能、遊走能の検討を行った。通常株、照射した株ともLAT1の発現が抑えられ、Sphere形成能、浸潤能、遊走能とも有意に抑える事ができ、今後治療薬として期待できる結果であった。臨床検体をLAT1で免疫染色しOS、PFSを検討したところ、強発現しているものは予後が非常に悪く、in vitroでの結果を裏付けるものであった。
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