研究課題/領域番号 |
18K09313
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
高安 幸弘 群馬大学, 医学部附属病院, 講師 (70375533)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 虚血 / 前庭神経 / パッチクランプ |
研究実績の概要 |
まずは生後20日年齢のラットを用いて、前庭神経核を含む脳幹の急性スライス切片を作成し、スライスパッチクランプシステムを用いて前庭神経核の神経細胞にホールセルパッチクランプを行う。その上で、前庭神経細胞における膜電流変化を記録した。-60 mVの膜電位固定下では、自発性興奮性シナプス後電流(sEPSCs)が記録され、+40 mVの膜電位固定下では自発性抑制性シナプス後電流(sIPSCs)が記録された。前者はkynurenic acidにて抑制され、後者はpicrotoxinで完全に抑制されたことから、sEPSCsはグルタミン酸受容体を介する興奮性入力を、後者はGABAA受容体を介した抑制性入力を反映した電流であることが分かった。自発性電流の発生頻度は興奮性入力で少なく、抑制性入力に多く記録され、これは作成した脳幹スライスにおいて抑制性のinter-neuronとの連絡が興奮性入力に比べ優位に保持されていると解釈できた。これまでの形態学的研究でも、前庭神経核に対する興奮性入力は遠方の様々な領域からの投射によるが、抑制性入力は同一位前庭神経核に存在する抑制性神経細胞が、対側前庭神経核から投射を受け、同側前庭神経核に投射する対側抑制の投射回路が示されている。すなわち、今回使用した脳幹スライスでは、この対側抑制が局所回路として保持された状態で記録できていることが示された。前庭神経核における対側抑制の経路は、前庭神経核自身の興奮性を決定する上で最重要な経路であり、これを保持した実験がパッチクランプ下にて確立した事は重要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
脳幹スライス切片には、当然ながら多様な神経核と連絡線維が存在しているため、標的となる前庭神経核を同定、それらの神経細胞から確実に電気記録をとることが、研究の第一歩である。解剖学的な位置に加え、先の論文方向と照らし合わせたときに、細胞膜容量や電気応答など機能的な面で前庭神経核と同定するに矛盾の無い電気記録であった。次に、本実験系において、生理的シナプス結合を保持しているかどうかが、大変重要となる。この点に関しては、自発性興奮性シナプス後電流および、自発性抑制性シナプス後電流いずれも、本年度の実験において確実な電気応答として確認された。それぞれ、選択的ブロッカーによって活性化された受容体が確認された。以上から、機能的シナプス結合を保持したスライス標本であることが確認され、今後の研究のベースとなる実験系が確立したと考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
これまで前庭小脳における実験系で、無酸素無グルコース(Oxygen-Glucose Deprivation; OGD)細胞外液還流による一過性虚血刺激実験にて、前庭小脳プルキンエ細胞における自発性興奮性シナプス後電流の増加が観察された。従って、本実験系の前庭神経核神経細胞において、OGD刺激によって、膜電位に度膿瘍な変化が生じるかを観察する。電流固定化のカレントクランプモードで、自発発火の変化を記録する。自発発火は神経細胞の興奮性の指標となり、生理的機能的変化を考察するうえで重量な現象である。一方、同様に、る前庭神経核膜電位固定化における自発性興奮性シナプス後電流および自発性抑制性シナプス後電流が、OGD刺激によってどのように変化するかを観察する。抑制入力が増強すれば、膜電位は過分極へ移行し、膜の興奮性は下がる一方、興奮性入力が増強すれば膜電位は脱分極へ向かい、活動電位が出やすくなる。ODGによる一過性極性変化でいずれの変化が生じるかは興味深い。まずは、OGDによって誘導されるこのような膜特性変化を記録し、最終的にはそのメカニズムを考察する実験へと移行予定である。
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