研究課題
生後20日年齢のラットを用いて、前庭神経核を含む小脳脳幹の急性スライス切片を作成し、スライスパッチクランプシステムを用いて前庭神経核および前庭小脳領域のUnipolar brush cell(UBC)の神経細胞にホールセルパッチクランプを行う。その上で、神経細胞における膜電流変化を記録した。UBCはIntrinsicな発火特性を持ち、type Iとtype IIに識別される。研究者は以前の研究にて、UBCのfiring特性からType IとIIを識別する方法を示しており、その方法に従って、まず記録された神経細胞を分類した。次に無酸素無グルコース細胞外液(Oxygen-Glucose Deprivation; OGD)の還流により一過性虚血状態を再現し、その際の発火特性の変化をモニターした。OGD外液還流時に、発火頻度が増加する現象までは明らかとなっていたが、そのメカニズムを薬理学的実験で検討を加えた。まず、発火頻度が上昇する機序として、静止膜電位の上昇が考えられた。しかし、発火状態の神経細胞ではベースとなる静止電位の測定は困難であり、そのため、ナトリウムチャネルブロッカー存在下に発火を抑制した状況で、膜電位変化を調べた。試験的実験では、テトロドトキシン存在下でのUBCの静止膜電位はおよそ―50mVで、これがODG外液還流中に10mV程度の脱分極を示した。各神経細胞で静止電位には多少のばらつきはあるものの、5個の安定したUBCの静止電位の平均値は-52.5 ± 0.8 mVであった。これらの細胞におけるOGD外液還流中の平均脱分極は、10.6 ± 0.7 mVであった。過去の報告では、UBCの発火頻度は、40pA程度の電流注入で20Hz程度の上昇が示されている。
2: おおむね順調に進展している
Unipolar brush cell(UBC)は前庭小脳に特異的に分布する顆粒細胞間の興奮性介在ニューロンである。末梢前庭からの一次前庭入力および前庭神経核からの2次前庭入力を受け顆粒細胞に伝達しているが、前庭機能に対するその役割は不明である。先の予備実験結果より、UBCが一過性虚血時に著しく発火頻度が上昇する現象が確認されていることから、前庭神経核を含む前庭小脳-前庭神経核局所回路において、一過性虚血時に興奮性が増強するメカニズムとして、UBCが重要な役割を果たしていると想定できる。従って、このUBCの膜特性に注目し、その発火特性変化の要因を検討すべく実験を遂行した。UBCは特殊な細胞で、一般に安定した実験系の確立には時間を要するが、研究者は以前に同様の実験系で記録を行った経験があるため、スムーズに実験を進めることが出来た。結果として、サンプル数は少ないがある程度安定した記録を5個の細胞から採取出来て、最終的に平均値でOGD外液還流時の脱分極性膜電位変化を確認した。この脱分極が、UBCの一過性虚血刺激時における発火頻度の上昇の原因ならば、次には脱分極を生じる機序の解明が望まれる。従って、研究の段階としては順調に進行していると考えられる。
Unipolar brush cellにおけるOGD外液還流時の発火頻度の上昇が、どのようなメカニズムで生じるかを明らかにする。まずは、どの程度の脱分極性膜電位変化が生じるかを細胞数を増やして検証していく必要がある。その後、その脱分極変化を生じるイオンチャネルを検討していく予定である。脱分極に至るイオンチャネルのメカニズムには、一般に、細胞外陽イオンの細胞内エントリーに起因するような、ナトリウムイオンやカルシウムイオンンのコンダクタンス上昇に基づくケースと、細胞内陽イオンの細胞外への流出抑制に起因するような、カリウムイオンチャネルのコンダクタンス低下に基づくものがある。一方で、今回前庭神経核を含む局所回路における現象として、前庭小脳領域のUnipolar brush cellを解析しているものの、最終的な出力先である前庭神経核の神経活動にいかなる変化をもたらすのかを突き止めるのが目標である。前庭神経核は、顆粒細胞層の情報を受けたプルキンエ細胞の抑制性出力の強力な制御を受けていると想定される。従って、前庭神経核における抑制性入力の状況時に生じる活動性の変化を捕まえることが具体的な最終目的となると考える。
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Cancer Med
巻: 8 ページ: 7227-7235
10.1002/cam4.2614. Epub 2019 Oct 16.