生後20日年齢のラットを用いて、前庭神経核を含む小脳脳幹の急性スライス切片を作成し、スライスパッチクランプシステムを用いて前庭神経核および前庭小脳領域のUnipolar brush cellの神経細胞にホールセルパッチクランプを行った。Unipolar brush cell はIntrinsicな発火特性を持ち、パッチクランプ下の電流注入による膜電位変化より、type Iとtype IIに識別される。その上で、無酸素無グルコース細胞外液(Oxygen-Glucose Deprivation; OGD)の還流により一過性虚血状態を再現し、その際の発火特性の変化をモニターすると、OGD外液還流時に、発火頻度が増加することが判明した。Unipolar brush cell Type I neuronにおいては、OGD外液還流中に発火頻度が平均で11.3 ± 3.4Hzから31.2 ± 11.03 Hzまで上昇した。これは、すなわち20Hz程度の発火頻度の上昇を示しており、20pA程度の電流注入時の10mV程度の脱分極の反応に一致する。従って、Unipolar brush cellの発火頻度の上昇はこの持続的な膜電位上昇に基づく現象であることが示唆された。この脱分極性膜電位上昇は、非選択的グルタミン酸受容体ブロッカーで抑制された。グルタミン酸受容体には、AMPA型とNMDA型の2種類が存在しているため、さらに選択的ブロッカー投与による薬理学的実験を行ったところ、NMDA型グルタミン酸受容体ブロッカーにて、優位にOGD誘発性の脱分極が抑制されたことから、NMDA型グルタミン酸受容体が主に関与する現象であることが判明した。これらの結果から、OGD刺激により細胞外グルタミン酸濃度の上昇が生じ、Unipolar brush cell で一過性脱分極から発火頻度が上昇したと考えられた。
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