研究課題/領域番号 |
18K09319
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
勝沼 紗矢香 神戸大学, 医学研究科, 医学研究員 (80457043)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 聴覚上皮 / 接着分子 / 有毛細胞 |
研究実績の概要 |
感覚上皮は、機能の異なる感覚細胞と支持細胞の2種類の細胞から構成され、感覚細胞は支持細胞に囲まれて互いに接することなく並ぶ。申請者らは、感覚上皮においてこれら2種類の細胞が正しく配列する機序を報告したが(Katsunuma, et al. 2016. Togashi, et al. 2011)、この配列が機能に果たす役割はわかっていない。申請者らは、きこえを担う感覚上皮で、異常に接した有毛細胞(感覚細胞)がみられるネクチンノックアウトマウスを報告しており、このノックアウトマウスが難聴を示し、異常に接した有毛細胞が成長とともにアポトーシスによる失われていくことを明らかにしている(未発表データ)。ネクチンは主要な接着分子のひとつで、有毛細胞と支持細胞に各々異なるネクチンが発現することによって、両細胞間に接着親和性と接着力の違いが生じ、その結果聴覚上皮の細胞配列が形成される。聴覚上皮における接着分子およびその構成分子の集積は、野生型とノックアウトマウスでは異なり、野生型で分子の集積に変化が生じる時期とノックアウトマウスでアポトーシスを生じる時期は同じ時期であることから、有毛細胞同士の接着がアポトーシスを惹起していると考えられる (未発表データ)。また、ノックアウトマウスの有毛細胞そのものの分化および機能は正常であることが分かっている(未発表データ)。以上より、聴覚上皮の細胞配列自体が有毛細胞の生存に重要であることが示唆される。聴覚上皮細胞配列における、支持細胞の働きをとおした有毛細胞の維持ときこえのしくみを解明することは、感覚器共通の感覚受容機構を解明するとともに、聴覚障害治療に対する新しい治療戦略を提供できる可能性があり、本研究をすすめていく意義がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで申請者らは、きこえを担う感覚上皮で、異常に接した有毛細胞(感覚細胞)がみられる接着分子ネクチンのノックアウトマウスを報告しており、同マウスが難聴を示し、異常に接した有毛細胞が成長とともにアポトーシスによる失われていくことを明らかにしている(未発表データ)。そこで、聴覚上皮の細胞間接着におけるタイトジャンクション形成分子ZO-1の集積を観察したところ、野生型と比較してネクチンノックアウトマウスでは、有毛細胞と支持細胞間のZO-1の濃縮に変化がみられないことがわかった。さらに、聴覚上皮の成長過程において、接着分子の細胞内結合蛋白であるアファディン、カテニンの細胞境界における濃縮の変化を観察した結果、野生型マウス聴覚上皮において細胞間接着構成分子の細胞間濃縮に変化が生じる時期と、ネクチンノックアウトマウス聴覚上皮において異常に接した有毛細胞がアポトーシスを起こす時期は同じころであり、有毛細胞どうしの異常な接着自体がアポトーシスの契機になることが示唆された。そこで、どのようなアポトーシス経路を辿るのか明らかにするために、聴覚上皮からmRNAを抽出しリアルタイムPCRでアポトーシス経路の候補を探索予定であり、現在、野生型マウスを用いて実験手技は確立できている。また、ネクチンノックアウトマウス聴覚上皮の異常に接した有毛細胞が機能しているのか調べるために、聴覚上皮を培養してFM-Dyeを添加しその取り込みを観察したところ、異常に接した有毛細胞も、正常マウスの有毛細胞と同様にFM-Dyeを取り込んでいた。この結果より、異常に接した有毛細胞はその分化と機能は保持しているものの、聴覚上皮の細胞配列異常により成長とともにアポトーシスにより失われると考えられた。以上より、聴覚上皮の細胞配列自体が有毛細胞の生存に重要である可能性が考えられ、今後次に述べる実験を計画している。
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今後の研究の推進方策 |
これまで申請者らは、異常に接した有毛細胞が観察される接着分子ネクチンのノックアウトマウスを報告しており(Togashi, et al. 2011)、このマウスが難聴を示し、異常に接した有毛細胞のみが生後成長とともにアポトーシスにより失われていくことを明らかにしている(未発表データ)。ネクチンノックアウトマウスのアポトーシスに陥る前の有毛細胞の機能は保たれていることが、聴覚上皮培養を用いたFM-Dye取り込み実験で分かっている(未発表データ)。ここから、ネクチンノックアウトマウス聴覚上皮における有毛細胞どうしの異常な接着自体がアポトーシスの契機となるのではないかと仮定し、野生型マウスおよびネクチンノックアウトマウスの聴覚上皮の成長過程を比較したところ、細胞間接着構成分子の細胞境界における濃縮の経時的変化に違いがみられ、有毛細胞どうしの異常な接着自体がアポトーシスの契機となる可能性が考えられた。そこで現在、ノックアウトマウス聴覚上皮における異常に接した有毛細胞がどのようなアポトーシス経路をたどるのか明らかにするために、聴覚上皮からmRNAを抽出しリアルタイムPCRでアポトーシス経路の候補を探索している。候補を同定したのちは、蛍光免疫染色および蛋白発現解析にてアポトーシス経路を明らかにする。また、単離有毛細胞に音響を与えてその機能(音響で電気的興奮が生じると有毛細胞が収縮する)を測定する。さらに有毛細胞のみを培養した場合と、支持細胞と共培養した場合を比較検討し、支持細胞の有毛細胞の生存と機能に対する効果を解析する。以上の実証検証より、ネクチンノックアウトマウス有毛細胞がアポトーシスにて脱落する原因を特定し、聴覚上皮細胞配列における、有毛細胞の維持ときこえのしくみを解明する。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和元年度から令和2年度にかけて継続して実験を行う必要性が生じたため、その実験に必要な消耗品の購入に当該次年度使用額を使用する予定である。
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