研究課題/領域番号 |
18K09320
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
工田 昌也 広島大学, 病院(医), 講師 (00179590)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 加齢性平衡障害 / 聴覚刺激 / 内耳 / メラトニン / NIRS / マウス |
研究実績の概要 |
本年度は研究計画に従い、実験動物を用いた研究では、C57BL6マウスを用い、経時的に8週齢より体平衡機能検査を行った。その結果、月齢8ヶ月で 1/10匹、14ヶ月で3/10匹、21ヶ月で6/10匹のマウスで、平衡機能障害(棒つかみの異常など)が出現してきており、加齢とともに体平衡機能の異常が出現することが確認され、現在も引き続き観察継続中である。また、加齢に関与する遺伝子、蛋白の同定では、加齢に関与することが知られているものの中から、メラトニン、メラトニン受容体に注目し、その内耳での発現様式、機能について検討した。その結果、メラトニン、メラトニン受容体が内耳(感覚細胞、神経、神経節細胞、水分輸送上皮、内リンパ嚢など)に広範に分布し、感覚細胞機能、水輸送機能、感覚細胞障害軽減作用などに密接に関与することを明らかにした。また、ヒトを用いた研究では、健常成人においては、白色雑音刺激、ガム咀嚼で大脳機能を刺激することで体平衡機能が向上すること、特に体性感覚、視覚が遮断され、前庭感覚が主になった状態で機能の向上が顕著になることを重心動揺検査を指標にして明らかにした。この時の大脳機能をNIRSを用いて検討した結果、現在の所、明らかな結論は出ていないが、前庭皮質への影響が出てくることが考えられた。これらの結果は、英文論文にまとめられたとともに、次年度に複数の学会発表を行う予定としている。さらに、人工内耳施行症例を集積し、人工内耳手術前後で平衡機能を比較検討する準備を行った。また、平衡リハビリの効果について、第77回日本めまい平衡医学会で発表したと同時に、教育、広報活動の一環として、医師向けへの前庭器の解剖についての解説を執筆した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の計画は概ね順調に推移している。動物を用いた研究では、加齢に伴い体平衡障害の出現頻度が多くなることをC57BL6マウスでも明らかにできた。また、メラトニン、メラトニン受容体の内耳での発現、機能を明らかにしたことは世界でもはじめての成果である。この結果は国際学術雑誌に投稿中である。更に、白色雑音、ガム咀嚼といった大脳刺激で体平衡機能が向上することを重心動揺検査を指標として、正常成人で確認できた。この結果は次年度に関連学会で発表予定である。それにより、今後、高齢者やめまい患者での大脳刺激での平衡機能の改善や、平衡リハビリへの応用などの検討が可能となる。また、人工内耳症例の集積も順調に行われている。しかし、今年度の結果は、主に若年動物や健康成人を対象にした結果であり、加齢動物や老人を用いた検討は次年度以降が主にになる。次年度以降は、予定通り、老齢動物、高齢者を対象にした研究を行うこととなる。これに対して、老齢動物の作成は予定通り進んでおり、高齢者の臨床例も着実に集まってきていることから概ね研究計画通りに進行できると思われる
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今後の研究の推進方策 |
研究計画に従い、本年度の結果を、動物実験では加齢による体平衡機能の変化を引き続き21ヶ月齢以降も継続する。さらに老齢マウスを用いて、メラトニン、メラトニン受容体の内耳での発現の加齢による変化を明らかにする予定である。ヒトを用いた研究では、音刺激による平衡機能の賦活化の条件として、音刺激の種類を変更し(語音刺激、音楽刺激など)最適な刺激方法を検討する予定である。今後は、これらの検討対象を高齢者やめまい患者、人工内耳埋め込み患者に拡大していき、高齢者の平衡障害の予防や平衡リハビリへの応用などについて検討していく予定である。また、NIRSを用いた研究では、音刺激による前庭皮質の反応性の変化を検討し、音刺激により平衡機能が向上するメカニズムを解明していく予定である。これらの検討をもとに、高齢者の平衡障害の予防、リハビリ、めまい患者の平衡機能リハビリに今回の研究で得られた結果を応用していくための方策を検討する予定である。研究期間中に得られた成果については、順次、国内、国際学会で発表していくと同時に、学術論文の作成に努めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度の動物実験において、老齢マウスの作成に時間が取られ、そのために、各種抗体、免疫反応容試薬の使用が予定よりも少なくなり、消耗品の支出が少なくなった。これは次年度に必要なものであり、すでに支出予定となっており、また、初年度で学会発表、論文作成費用が次年度に繰り越されることとなったが、次年度にはすでに複数の学会発表を予定しており、次年度に使用予定となっている。
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