昨年に引き続き本課題で我々は細胞内外環境の変化に対する応答を線毛細胞に着目して検討を続けることにした。手術検体を用いてヒト鼻粘膜培養線毛細胞(cHNECs)を作成し、実験を行った。線毛運動を顕微鏡下に観察する際、上方から観察する。この場合従来の線毛運動の振幅の指標として用いたCiliary beat angle:CBAは評価が困難であった。そのため我々はこれに代わる指標としてCiliary bend distance:CBDを開発した。今回の研究を通してcHNECsの粘膜線毛輸送能はCiliary beat frequency :CBFとCBDの二つのparameterにより規定されることを見い出し、CBD単独の増加で粘膜線毛クリアランスも増加することを報告した。またcHNECsは気管や肺などに存在する他の気道上皮細胞と同様に細胞内Cl-濃度減少により線毛運動振幅であるCBDのみ増加がみられた。このことから、cHNECsにおいて線毛運動調整には細胞内Cl濃度が重要であることが示唆された。また実臨床で使用するカルボシステインをcHNECsに作用させると、細胞内Cl濃度低下を伴うCBD上昇を引き起こすことを確認した。実臨床で使用される薬剤においても細胞内Cl濃度低下を介して線毛運動活性化を引き起こすことが示された。さらにcHNECsにはCO2からcarbonic anhydrase (CA) により産生されるH+ (pH) が重要で、下気道線毛細胞とは異なる調整機構を有する可能性が示唆された。
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